第2話 恐井さんの職業
意外に思うかもしれないけど、恐井さんはちゃんと働いている。
え、別に意外じゃないって? 大人なら、働くのは当然だって?
でもあの恐井さんだよ。
失礼かもしれないけど、接客業はお客さんをバタバタ気絶させてしまうから向かないだろうし、営業で取引先の会社に行ったら向こうはパニックになること間違いなしだ。
けど金を稼がないと生きていけないから、恐井さんは働いている。
そしてその職業と言うのが、獣医さん。
実は恐井さんは動物が大好きで、やってきた動物たちをいつも優しく診てくれているんだ。
え、いくら恐井さんの顔が恐くても、さすがに動物なら恐がったりしないだろうって?
あまい、あますぎるよ!
恐井さんを見たら、ちゃんと(?)動物だって恐がるんだ。
犬は吠え、猫はニャーニャー鳴きながら逃げようとして、こんなんで診察なんてできるのかって最初は思ったけど。
そこには恐井さん独自の診察方法があったんだ。
あれはぼくが、ペットのポチを連れていったときのこと……。
「ふっふっふっ。ポチくんや、そう暴れなさんな。おじさんはこう見えて、本当は恐くないんだよ」
優しく語りかける恐井さんに、診察を受けた動物は大抵動きを止める。
警戒を解いたからじゃない。
蛇ににらまれたカエルみたいに、恐くて動けなくなるんだ。
「さあさあ恐くない恐くない……恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない恐くない」
恐井さんは恐すぎる顔でニタ~って笑う顔を見て、ぼくの意識は途切れた。
ぼくは恐井さんには慣れてるつもりだったけど、それでもその笑顔は不気味すぎて、恐怖のあまり気絶したんだ。
もちろんポチも気絶した。
けどその間恐井さんは、大人しくなったポチをゆっくり診察したのだとか。
注射をする時だってそう。
注射と聞くと暴れる犬や猫も多いけど、気絶している間にチクンとすればOK。
動物たちは暴れることなく、注射されるわけだ。
もしかしたら恐井さん、案外獣医が天職なのかも?
「くぅ~ん、くぅ~ん」
あ、ポチが首を横にふってる。
え、恐井さんの診察は、もう受けたくないって?
そんなこと言わないで。
確かに恐ろしくて仕方ないけど、動物思いのとってもいい人だから。
ガタガタ震えるポチを見ると、ちょっぴりかわいそうだけど。
つづく
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