わたし、言葉で殺せる小説家が好きなんです。

万物の水

小説家

彼のペン先からインクが染み出すとき、世界のどこかで、ひとつの命が消える。


私が小説家・水上連みずかみれんその”本質ほんしつ”に気づいたのは偶然だった。彼は十年ほど前に突然姿を現し、この世に五作品のみしかない呪われた天才。彼の作品はいつも登場人物が不条理な死を迎える。だが、克明こくめいでもある。


きっかけは、彼の3作品目「白のカプセル」に登場した、単なる大学生だった。作中、その大学生は「毒の入った白いカプセルを飲み、窒息死する」という皮肉な最期を迎える。そして、小説の発売から1週間後。現実の大学生が自宅近くの薬局で処方されたを飲み、自宅で死んでるのが見つかった。


警察は薬の取り違えによる”事故ミス”と発表したが世間では妙な偶然と噂した。だが、私はこれは偶然ではないと確信している。水上連は、物語に書いた死を現実にする力を持っている。


彼は言葉で人を殺せるのだ。


恐怖は感じなかった。むしろ、私の全身を貫いたのは神の偉業に触れたかのような戦慄と焦がれるほどの憧憬しょうけいだった。

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