第6話 襲撃
さてはて、今後はどうしていくか。馬車に揺られながらぼんやりと考える。というか、この馬車はどこ行くの馬車だ?ちょうど出発する馬車に乗っただけだから、行き先がわからない。
馬車に乗っているのはオレを合わせて5人。武器を持っている2人の傭兵チームと、1人は商人。そして、ローブを深く被り顔が見えない、情報誌を読み込んでいる老人が1人。
「この馬車ってどこ行きなんですかね?」
オレは老人に声を掛けた。老人は瞳だけでこちらを一瞥したあと。
「サンベリル村いきだよ」
「ありがとうございます」
傭兵たちは行先も知らずになんで乗ったんだ?と訝しんでいるが、老人はその疑問を抱かなかったのか、言葉短く答えた。
サンベリル村。運がいいのか悪いのか、そこはオレの故郷だ。8年前に村を飛び出してから初めての帰省がこんな成り行きになるとは思っていなかったが、いい機会かも知れない。村の人にどんな顔をされるかわからないが、今のオレはお先が真っ暗。我が家でこれからのことを考えるにはちょうどいい。
場所を教えてくれた老人は、それよりも、と言いながら情報誌を折りたたみ。
「お兄さん。なにか事情持ちかい?」
顎に携えた長い髭を触りながら問いかけてきた。
「と、いいますと?」
「王都を出るとき言い合っていたのは王都騎士団のバッツじゃ。わざわざアレがお見送りとは、なにか問題事でも抱えてるのかと思いましてね」
深いフードの奥から覗くのは、鋭さと柔らかさを併せ持つ灰色の瞳。
「そんな警戒しないでくだされ。ワシは情勢が好きなただの爺。何者でもない者よ」
言いながら情報紙を持ち上げる。老人が持ち上げた情報紙は『ミスリード』という組織が販売している、ノルダリオン王国の情勢を綴ったものだ。7日に1度発行されており『この紙には虚偽が記されている』という謳い文句で販売されている。
虚偽が記されていると謳っている割にはノルダリオン王国で実際に起こった事件がまとめられているので、そのどこまでが事実でどこまでが虚構なのかの判断は難しい。話半分で楽しむ情報紙であり、一部のマニアが好き好んでいるものだ。
「老い先短い爺にはこんなものしか楽しみがなくてのう。城で起こったことやそれに近い場所にいる騎士団の話題なんかは大好物なもんでね」
目を細めて笑う老人。その声音には、冗談とも、本気とも取れる響きがあった。
悪い人にも見えないので、適当に対応することにする。
「バッツは、友人みたいなものです。故郷に帰ることになったので見送りに来てもらったんですが、飲み屋のツケの件で言い合いになりましてね。暫く会わないんだから金を返せと言ったのですが、逆ギレされて危うく暴力沙汰です。最悪な別れになりました」
「なるほどなるほど。それは災難」
「すいませんね、面白い話が出来ずに」
「十分に面白い話しでしたよ」
その言葉に感情は乗せられていない。
老人が再び情報紙を読み始めると、オレの目に映ったのは紙にデカデカと書かれた文字。
『王は既に病死している?裏で暗躍する第二王女の毒牙に迫る!』
「興味がおありで?」
「……随分と目がいいですね」
顔を向けず瞳だけで一文を読んだだけだったはずだが。
「ワシの金で買ったもの。ケチな爺は他人の盗み見に敏感になってしまうもので」
そういうレベルの気付きではないと思うが。
「これをどう見ます?」
どこか楽し気に問いかけてくる老人。
「それは」
返事をしようとした瞬間、ガタンと大きな音を立て、馬車がいきなり停止した。急な衝撃に身体が前に投げ出されそうになる。外から怒鳴り声と、金属のぶつかる音が響いて来た。
すぐさま傭兵の2人が武器を手に取り外に飛び出した。慣れた身の熟しを見るに手練れとわかる。オレは老人と商人に目を配る。老人は停止した衝撃に耐えられなかったのか、荷物に身体を突っ込ませすっころんでおり、商人は馬車の前方から外の様子を伺っていた。
金属が衝突し合う音。そのあとすぐに呻き声が聞こえた。すぐさま外に飛び出ると、地面には傭兵達の死骸が転がっていた。目を見開いままの生首と、四肢が潰されている者。
「随分と乱暴な連中だな」
粗末な装備をした盗賊たちが、殺した者たちを蹴り飛ばしてこちらに目を向けた。
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