第12話 タマエのスマッシュ!

 もう大丈夫だからと、お父さん、お母さんに説得され私はバドミントン部に復帰した。

 久々の部活。私はミナとペアを組んでダブルスの試合形式での練習をしていた。


 私の頭上にロブが上がった。

「タマちゃん、スマッシュ!」

 三奈が叫ぶ。

「パン!」

 勢いよく振り下ろした私のラケットのフェースにシャトルがクリーンヒットして相手コートに飛んでいった。相手はたまらず苦しい体制でレシーブするがそのシャトルはネットを越えなかった。

 

「おー! ナイス、スマッシュ!」

「打てた! ミナ、私、スマッシュ打てたよ!」

 そう叫ぶ私を三奈が両手を広げてぎゅっと抱きしめてくれた。翔子が私に向かって親指を立ててウインクしている。


 私の隣には三奈がいる。相手コートにいる人だって「敵」じゃない。嫌がらせをされて、誰かを攻撃することが怖かった。自分が自分じゃなくなってしまいそうで。心の傷口から血が溢れそうで。だから私は自分を守るために殻に閉じこもったんだ。そしてスマッシュを打てなくなった。打ちたくなかった。でもそんな殻を翔子が、三奈が、ひかり先輩が、そして同じ部の皆が壊してくれた。



「11月から新人戦が始まるんよ。それに出場してみない?」

 顧問の吉田先生から言われた。

「でも、私、ペアいないし」

「え? 山本さんじゃないの?」

「ミナは翔子とペア組んで出場するんじゃ?」

「中山さん、新人戦はシングルスで出場するんだって。あの子だったらかなりいいとこ行けると思う。あなたたちにも期待してるよ!」

 吉田先生が私と三奈を見てウインクした。


「うちのペアは最初からタマちゃんしかおらへん」

 三奈が私の目をまっすぐに見てそう言った。私も三奈の目をまっすぐに見て頷いた。

 「さあ、これであんたも玉ねぎ王国の兵士やな。敵をばったばったとやっつけよう! 新人戦、勝ちに行くぜ!!!」

 そう叫びながら三奈が右手を勢いよく突き上げた。あれ、三奈に玉ねぎ王国の話したっけ?



 11月。新人戦が始まった。私と三奈のペアはさっきブロック予選の2回戦を突破した。今、3回戦を戦っている。あと2つ勝てば決勝進出。優勝、準優勝の2ペアが県大会へ出場することができる。

 私がスマッシュを打てなくなったとき、私たちはカットとヘアピンの練習を必死でやった。その練習が功を奏して私たちはネット際の攻防に持ち込んで得点を重ねた。新人戦に出場するのは全員1年生だからネット際の小技はあまり上手くない。スマッシュなど力技で攻めてくるチームがほとんどだ。私たちはそんな相手の攻撃を粘り強くしのいだ。


 新人戦のブロック予選2日目。今日2つ勝てば決勝進出。そして県大会への出場が決定する。翔子もシングルスで勝ち進んでいる。彼女の試合は全くあぶなげがない。流石さすが! って思わせる戦いぶりだ。

 

「なんかうちの応援の人、多くない?」

 試合の合間、私は翔子に話し掛けた。

「吉井にクラスの子たちを連れて応援に来いって言ったんだ。今日私ら優勝するからって」

「ええ? 優勝!? 無理無理無理! 翔子ならできると思うけど」

 そんな私の動揺なんかスルーして続ける翔子。

「吉井の奴、結構盛り上げてるじゃん。さすがバスケ部のお祭り男だな」

「翔子が吉井君に頼んだん?」

「つーか、あいつ私にラブレターよこしたんだ。前、タマエのことで揉めたことあったでしょ? あのすぐ後で」

「ええー! なんで?」

「失礼だな。なんでってことはないだろ? あいつ、私のに惚れたらしいんだよ。確かにわけわかんねーよな」

 吉井君って意外な趣味してるな(翔子、ごめん!)と多真恵たまえは思った。



「吉井、がんばってるじゃん。その調子でがんがんいけ!」

「はい! あざっす!」

 なんか、吉井君、彼氏っていうより翔子の子分みたいになってるけどそれでいいの? 


「おい」

 吉井君が背後の女の子に声を掛けた。あ、中川さん。私に嫌がらせした子だ!

 中川さんが私の方へ歩いて来た。反射的にちょっと身構えてしまう。

「私、あんたがひかり先輩にちくったらどうしようってずっとビクビクしてたんや。でも黙っててくれたんやな」

「今日、あんたの試合見てびっくりした。高橋さん、すごく上手なんやな。まるでひかり先輩みたいって思った。ガット切ったり、色々嫌がらせして、ゴメン!」

 中川さんはそう言うと彼女の長い髪の毛が床に付きそうなほど深々と頭を下げた。

 

 その様子を見ていた翔子が吉井君に言う。

「吉井、やるじゃん。グッジョブ!」

「あざっす!!!」

「その敬語やめろよ。でないと付き合ってやんねーぞ」

「え…… 俺と付き合ってくれるんですか!?」

「だから敬語やめろって。ああ、今日はちょっと見直したからな」

 翔子、顔が赤くなってる。照れ隠しにプイッとそっぽをむく。そんな翔子の様子に私と三奈は顔を見合わせて吹き出した。翔子ってめっちゃツンデレなんだ。


「さて、じゃあいっちょいきますか!」

「うん、いきましょう!」

 私たちは次の試合が行われるコートに向かって歩き出した。

 ここで勝つことが私のバドミントン部のみんなへの恩返しになると信じて私は思いっきりスマッシュを放った。

「くらえ! 玉ねぎスマッシュ!」 心の中で叫ぶ。


 私のスマッシュが決まったのを確認した前衛ぜんえいの三奈が吹き出した。

「わはは! なに? 玉ねぎスマッシュって」

 え? 心の中で叫んだつもりだったのに声に出てた? わー、恥ずかしー!

「いいじゃん、玉ねぎスマッシュ。どんどん打ちまくれ!」

 三奈がラケットのフェースで私のお尻をポンと叩いた。


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