第25話、星空デート
夏休みも終わりかけている。
そんな最終日間近の頃、雫と来夏は部屋で本を読んだりしてゆったり過ごしていた。
「行こうぜ! 山!」
「「…」」
––––––そんな流れをぶち壊すように登場する愛に、二人は「またか」というような顔を浮かべる。
「また唐突に始まったね…愛ちゃんのこれ」
「毎回恒例だからもう何も言うまい」
来夏が雫のところに来るたびにこれが必ず一回はあった。
今年はないのかなと思っていたら最終日間近にぶち込んできた。
「それでなんで山?」
「遊びたい!! あと今日は星奇麗っぽいから見たい!!」
「さて、ならお弁当でも作ってくるわ。雫、対応任せた」
「弁当ならあるぜ!!」
「うーん、準備がいい」
そしてあれよあれよと昼過ぎになり、唐突なピクニックが始まった。
「まあ愛ちゃんに振り回されるのもいつものことだからもう慣れたけどね」
「そう言って雫がなんだかんだ、いつも一番楽しんでるけどな」
「まあ愛ちゃん、いつも私に用事がないとき見極めてやってくるからね」
山の広い場所にたどり着き、テンションをあげてる愛を眺めながらそんなことを話す二人。
なんだかんだ、こんな愛が大好きなので仕方ない、と二人で笑いあう。
「けど愛ちゃんも仕事忙しいんだから、無理せずに休んでてもいいんだよ?」
「二人が大変な時に、私は何も出来なかった…だからこんな時くらい、それっぽいことさせておくれ」
「気にしなくていいのに」
そんなことを話しながら、トランクから取り出した遊び道具を手に何するか話し合った。
「さて、じゃあ最初はサッカーボールで遊b」
「うおおおおおおおおおおおおお゛!!!
爆熱ス〇-ム!!!!」
「なにいいいいいいいいいいいいい!?!?!」
サッカーボールを見つけた瞬間、食い気味爆熱ス〇-ムを放つ来夏。こいつマジか。
「は…! サッカーボールをみたらつい」
「いやついってレベルじゃなかったよね!? 今背中に化身っぽいやつでてたよね!? というか炎!?」
「はあ……こういう時、一番はしゃぐがらいかだって忘れてた……」
一番はしゃぐのが来夏。
一番楽しむのが雫。
一番笑顔なのが愛……それがいつものことで、それがなぜだか嬉しくて、雫はふいに笑顔を漏らした。
◆◆
あっという間に夜になり遊び疲れた二人は草むらでぶっ倒れてた。
愛は少し離れたところで幽霊いるかな、と散策している。
「ねえ、らいか」
「ああ…」
そこで遊び疲れた二人は先日の事件を思い出した。
新宿のドラゴン騒動、それの熱は冷めることがなく、今なおニュースで専門家が取り上げたり、警察でドラゴンを倒した人の捜索がされている。
「この前のアレ」
「————嫌悪が関わってる」
嫌悪ノ聖女。
四名いる聖女のうちの一人
「竜王墜落は嫌悪が先代竜王をぶっ殺して、その加護の全てを喰らい尽くしたのが原因だ…そして奴の内部には」
ドラゴンを殺したとき、その個所を狙い、粉々に破壊した。
ただ一瞬、ほんの一瞬だが、そこに埋め込まれていたものがなんだったのかを思い出す。
「…竜王の加護が、欠片だけ埋め込まれてた。
竜王の加護の所有者は嫌悪だ……」
竜王の加護の正当なる継承者、それに選ばれたのは聖女の一人であり、雫たちの仲間であった少女––––––嫌悪ノ聖女である。
「他の神殺しも協力はしてるだろうが…アレは実験の一つだ。
恐らく古竜をわざわざ送ったのにも何か理由があるはずだ」
「…………嫌悪と、また会うかもしれないね」
そして嫌悪のことを思い出しながら、二人は空を見上げた。
◆◆◆
ぐがーー、といういびきをかきながら、布団で全裸に古い首飾りというあられもない姿で少女が寝ていた。
窓から差し込む日の光でぱち、と目を覚ますと目をこする。
『ふう、今日もいい天気だぜ』
目を覚ましてカーテンを開ける。
寝るときは基本全裸の嫌悪は、その日も全裸で日の光を浴びていた。
たまに全裸で素振りをしてる時があるので見つけたやつが大急ぎで止める決まりとなっている。
『…』
嫌悪は窓から空を見て、その青々しさにずぐん、と下腹部に何か熱いものを感じる。
『今日はどんな奴と殺し合いができるのかな…わふ』
興奮を隠せないまま、服を着る。
黒いショートパンツに白いシャツと尻まで裾のある羽織を着て、愛刀を腰に差して部屋を出る。
『俺の斬撃を喰らっても…生きてる奴…いるかなあ…』
殺し合いをする想像をするだけで興奮する、それが嫌悪という少女の異常性であった。
『おはよ嫌悪…って、なんで朝から魔力暴走してんのよ』
瞳に逆さの十字架が浮かんでいる少女————真理がドン引きしながら
『あ、わるい。
なんか今日の予定考えたら覚醒してた』
それを聞いてさらにドン引きする真理、うぇぇ…と呻きながらリビングルームに足早に消えていく。
…………そして、それが嫌悪という聖女の日常だった。
……………………
「もうやだよ…朝起きてとりま覚醒って何…もう覚醒見飽きたよ…」
「あの全自動覚醒マシンとまた会うかも知らないのか…鬱だ」
出会ったら突拍子もなく殺し合いが始まるのが予想できるから、本当に会いたくない。
竜王殺害も彼女のなりの理由があり、良いやつだと分かってるがそれでも嫌なものは嫌だ。
「もう…………星見てるときに、疲れることは思い出さないようにしよう」
「そうだな…それがいい…………いや、本当に」
運動の疲れがさらに増した状態で、二人は空を見上げる。
本当にきれいな星々に、見とれる。
「こんなきれいな星が見えるなんて、愛ちゃんに感謝しないと」
「そうだな、雫は星、すきだしな」
「うん、本当に……ずっと、星空ばっかり見てる」
日本に来ても、向こうでも同じように、空をよく見ていた。
「そうだったかな」
「そうだよ」
思い出すように、星へ手を伸ばす。
「みんな、死んだ時も。
らいかが助けに来てくれた時も、
悪役令嬢として、裁かれた時も…ずっと、星空だった」
そこまで話して、らいかも思い出したように、星を見た。
「ああ…そうだったな、君をあの夜会から連れ出した時も…こんな夜空だった」
夜会を連れ出したとき……お姫様だっこしてくれたことがいい思い出だった。というかそれしか覚えてない。
「うん……ずっと…空が寄り添ってくれてる気がしたんだ」
学園時代は友人なんていなかったし、いたとしてもそれはすぐに殺されてしまった。
「…悪役には、きっと孤独こそふさわしい。
そう思ってる時期もあった」
今でこそ、らいかに会えた……その思いを確かめるために、らいかの手を静かに握った。
「雫は言うほど悪役令嬢だったか」
確かに、私の出てたゲームとか悪役令嬢じゃなくて別の称号で呼ばれているみたいだけれど、
「あの時も冤罪だったし」
「ふふ、悪役だったよ、神様を殺すなんていかにも物語の悪役じゃん」
ちょっとだけ神を殺す、なんて響きがかっこいいと思ってしまっているのは秘密。
「神を殺したのも、私怨だったとしても…あの時の俺たちにはそれ以外生き残る術は無かっただけだ」
事実、神を殺さなければ世界は終わっていたし、現に何億もの人がし死んでいた。
けれど、
「そうかな、悪役っぽいこと、それ以外にも沢山したと思うんだけど?」
神を殺して、それに成り代わろうとした事。
怒りに任せて敵対勢力の惨殺。
ハーフエルフの身でのエルフの泉使用。
罪を並べればそれこそ数え切れない。
「神様の仕組んだ役割じゃなくて、私自身が悪役でなければ不可能だと思う」
それに私は、悪役令嬢という響きが嫌いじゃないし、自分を表現するなら、それしかないと思う。
「悪役令嬢ってね、凄く我儘なの」
我儘で、出来もしない未来を求める。
「悪役令嬢ってね、凄く嫉妬深いの」
嫉妬深くて、家族に捨てられたくせに、愛を諦められない。
「悪役令嬢ってね…ずっと、復讐ばかり考えてるの」
みんなを殺して、世界そのものを玩具にした神を、何があっても殺すと決めた。
「神を殺す…みんなを誰一人として、死なせたくない」
最初に願った、あまりに遠い理想。
「絶対に、誰も出来ない高望みだったと思う…一つを成すなら兎も角、どちらも取るなんて、酷い我儘で、酷い嫉妬で…醜い復讐だったんだと思う」
そのために、那由他にも至るほどの回数、人生をやり直した。
何回も泣いて、吐いて、自殺しながら生きてきた。
「でも、どっちも諦められなかった」
どちらか片方なら、きっと容易くできた。
けれど、どちらかを諦めるという賢い選択は、私にはできなかった。
「誰も死なせたくない。
神を殺す…どっちも大事で、どっちかなんて、絶対に認めてらやらない」
だって、みんなみんな、本当に大切で、見捨てられるほど私は大人になれなかったから。
「誰も彼もが笑顔の大円満以外の選択肢を、憎しみで焼き尽くした。
諦めるという選択肢を苛立ちからくる癇癪で跳ね飛ばした」
夜空に伸ばした手で、つかめもしないのに、星をつかもうとした。
「一つも取りこぼしたくない…みんな大切で、神殺しも諦めることなんて出来ない。
————だから、私は悪役令嬢なんだよ」
我儘で、嫉妬深くて…みんなが笑顔で生きてる未来を死に物狂いで求め続けた。
そんな我儘な子供が悪役令嬢ではなくてなんだと言うのだろうか。
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