【ドラノベコンこだわり世界観第一幕完結】ミオ帝紋 ~千年生きる小娘は、お供とともに悪事を挫いて旅をする~
小峰史乃
第1話 ミオ一行、サラス郡に到着する
ミオ一行、サラス郡を訪れる
* 1 *
「ココガ サラス郡 デスカ」
そんな無機質にも思える声に反応したのは、小柄と言うにも小さい娘だった。
「そうヨ、ここがサラス郡の町だ」
厚手の外套を羽織った旅装束の小娘は、左右に二階建ての木造家屋が並ぶ町の中を、迷いもなく歩いている。
小さくまとまった可愛らしい顔に、にんまりと得意げな笑みを浮かべる小娘の容貌は、少々異様だった。
左目は黒い眼帯によって隠されている。何より、耳が違う。
背の半ばまであるさらさらとした長い金髪の間から覗く彼女の耳は、先端が長く尖っていた。
行き交う町の人々は、ちらりと彼女の姿を見、「エルフ?」とささやきあっていた。
特徴的と言うにはあまりに長く尖っている彼女の耳は、人間の数倍もの寿命を持ち、森や山奥にひっそりと住んで、人里に滅多に現れることがないエルフの特徴のひとつと伝えられるものだった。
「けっこう山の中にあるってぇのに、意外に大きいんですねぇ、ミオ様」
暢気な声でそんなことを言うのは、エルフとささやかれた小娘ミオの隣左隣を歩く女。
クセが強い濃い茶色をした彼女の顔立ちは、まだわずかに幼さを残すものの、可愛らしさよりも鋭さを放つ切れ長な目をしている。
黒のヒールのあるブーツと黒のタイツ、ウルトラミニのスカートの中に消えるガーターベルトの間に見えるのは、そこだけまぶしいほどの絶対領域。
顔に残る幼さには似つかわしくない大きな胸は、身体の線が出る黒いシャツの胸元でくっきりとした谷間をつくっていた。
そして彼女の腰には、精緻な装飾が施された鞘に収められた刀がひと振り、それから柄まで金属製の黒い鉄刀が提げられている。
刀を佩くのは、武道をたしなむ武人の証であった。
「サラス郡には山の幸が集まってくるし、温泉もある。東西道からは外れておるが、昔から知られた湯治町でな、皇帝や覡(かんなぎ)といった賓客をもてなすための邸宅もあるほどじゃ」
「ほほぉ。なら、遊ぶ場所もありそうですなぁ」
「これっ、スキア!」
ミオにたしなめられた武人の少女スキアであったが、あまり気にもとめず唇の端をつり上げて辺りを見回していた。
「ダメデスヨ スキア。貴女ノ 遊ビニ 路銀ヲ 使ウ余裕ハ アリマセン」
「そんないけずなこと言うなよぉ、カークぅ」
スキアを情けない顔にさせたのは、ミオの右隣に立つ者。
並んで歩く三人の中では、カークと呼ばれたその者が一番異様な姿をしていた。
全身が金属製。
頭のてっぺんから足の先まで、鎧と呼ぶにも重厚すぎる濃紺の装甲に覆われ、人の肌など一片も見えない。手足はあるものの、顔と思しき部分には赤く光る目だけがある仮面が填まっている。
身長は二メートルほどもあり、片腕だけでもミオの身体ほどの太さのある腕を持つカークは、人型をした機械人形のような風体だった。
晴れ渡った空の下、町民からのぶしつけな視線も気にせず歩く三人は、明らかに浮いていた。
「それで、ここには何やら美味しいものがあるとかで来たんでしたっけ?」
「うむ。この時期サラスの新そばは絶品でな。……しかし、なにやらおかしいな」
スキアの問いに答えたミオは、つるりとした細い顎をさすりながら辺りを見回す。
町の入り口であるこの辺りには、食事処や特産品を売る店や宿の他、商人や旅人が利用するための施設が集まっている。
――人が、少ないな。
ソバで有名な湯治町のサラス郡で、新そばの時期であるはずなのに人が少ないようにミオには思えていた。
「ドウカ サレタノデ? ミオ様」
「ふむ……。少し前の同じ時期にきたときより、活気がないように思えてな」
「長生きのミオ様にとっての『少し前』はどれくらい前になるのか。そりゃあ人の町は変わりますって」
「それも、そうなんじゃがなぁ」
そんなやりとりをしつつ、町の奥へと歩みを進めているときだった。
「おっと、ゴメンよ」
後ろからミオにぶつかってきたのは、スキアと同じ年頃の少年。
男にしては若干長めの髪で少し丸みのある人好きのする顔を振り向かせ、済まなさよりも興味津々な笑みを浮かべて振り向いた。
ミオにぶつかりながらカークとの隙間をすり抜けるように前に出た彼は、片手を立てて軽い謝罪の意を示した後、足早にその場を立ち去った。
「大丈夫 デスカ ミオ様」
「くっそ。なんだあの莫迦は。叩き潰してやろうかっ」
両腕でミオを包むようにして心配するカークと、小道を曲がって見えなくなった少年の方を見つつ腰の鉄刀に手をかけているスキア。
「叩き潰すかどうかはともかく、追わねばならなんな」
立ち止まったミオは、外套の上から身体のいろんなところをポンポンと叩く。
「どうやら路銀をスラれてしまったようだ。ふぅむ。小僧のくせになかなかの腕のようだな」
焦ることなくそんなことを言うミオは、唇の端をつり上げて笑みを浮かべた。
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あとがきにかえて
非常にギリギリのタイミングですが、ドラゴンノベルスコンテスト中編部門の応募作となります。
期間内に4~5万字程度、19話くらいで一気に公開していきますので、できましたら星やコメントにて応援していただけるとわたしがとても喜びます!
どうぞこれからのミオたちの活躍を刮目してお待ちください!!
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