31
荒野は静寂に包まれていた。
動くものはどこにも見当たらず、ただいくつかの人影がまばらに立っているだけ。
対ミカ・ローストの共同戦線に参加した少女たち。
最初に姿を消したのは海月姫だった。
彼女は無数の亡者を海洋へと送り込んだあと、そのまま何処かへと立ち去ってしまう。
さらには【星の化身】たるガイアは戦いの結末を見届けたのち、ただ小さく「疲れた」と言い残し、蓮の花の中にその身を隠した。基本的にはこれからも第三者の立場として、この星の行方を見届けていくのだろう。
そして、大勢の仲間たちとともに戦場を駆け抜けた
「ようやく終わったのか……」
つい先程まで激闘が繰り広げられていた舞台を眼下に見やり、A4が小声でつぶやく。
感慨深げな横顔。そこへ脳天気な表情で呼びかけてくる馬鹿がいた。
「ね? ね? これからどうする? みんなでパァーっと、打ち上げパーティーでもやっちゃおうか?」
ルミナス・シャインがまるで試験終わりのJK並みにお気楽な提案をした。
「……そうだな。それも悪くはないかもしれない」
意外にも乗る気のA4。その返答に驚いた顔で眼を丸くしたのは、となりに立っているルッキオーネだった。
「ほ、本気なの……?」
相手の正気を疑うように短く訊きかえす。
「我々は、それぞれの神のために戦う
「え! え? ホントにいいの? それじゃあ、早速デリバリーを注文して……」
そんなもの、本当にあるはずがない。
けれど、調子にのった
「あ、月からここまで『コウノトリ』でどれくらいかか……る…………の……か」
急に少女の動きが捗々しくなくなる。
「あ、あれれ……。声……が……おく、れ、て、くる……わ」
ネタが一気に古臭くなった平成初期。
そのまま、立ち姿の映像まで固まった。
多分、WIFIの電波が急に悪くなったのかもしれない。田舎か!
「うそ! わたしの出番、これで終わりなの!?」
今際の際にろくでもないひとりごとを残し、ついには画像のRGB階調まで反転した。
結局、それきり彼女の衛星リンクは回復することもなく、残ったのは間抜け面の立ち絵一枚といった有り様。まあ、戦場のモニュメントして未来永劫、このままでも問題はなかろう。
「最後の最後まで騒々しいやつだな……」
A4があきれたように感想を漏らす。
それでもなぜか、表情はこれまでになく穏やかだった。
「それでは、わたしもそろそろ退散するとしようか……」
残されたあとひとり、ルッキオーネに向かって別れの挨拶をする。
「次の会うときは互いに敵同士よ。でも、それまではせいぜい壮健でいなさい。アスクレピオスの
やさしくほほえみながら再開を約したふたりの少女。戦う定めを知りながら、互いの無事を祈るのは気まぐれな神の悪戯なのか。その答えはどこにもない。
「……そうだね」
とまどい気味に短く応えたとき、ルッキオーネの視界に崖下から飛び上がる数体の
その後を追いかけるようにA4が崖に向かって飛び出していった。すぐに姿が見えなくなる。ほどなく、先行する姉妹たちを追いかけながら、ふたりの少女が手を繋いだまま天へと昇っていく。その光景は、戦場で倒れた勇者の魂をヴァルハラへといざなうワルキューレ。
たったひとり、荒涼とした大地に残されたルッキオーネ。その足元にただ一頭、サバンナから少女に付き従ってきた白いライオンが頭を近づける。
「レオシルバー……。そうだね、あたしたちも帰ろう、懐かしいサバンナへ」
腰を落とし、獅子の頭にやさしく抱きつく。旅人は遠く離れた異国の地で故郷に思いを馳せる。大地を渡る風はきっとサバンナまで届いているのだろう。
ルッキオーネが獅子の背中にまたがり、レオシルバーが勢いよく駆け出した。
西へと傾いていく太陽を追いかけ、
了
擬人化大戰 ――アマデウス・プリティ―― ゆうきまる @yukimaru1789
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