インテルメッツォ 02 虚構迷宮

 続々と送られてくる偵察衛星アルゴスシリーズからの新規映像。新たに届いたフォルダには、


『熱い太陽の下で水着美女ふたりが衆人環視の中、組んずほぐれずの大ハッスル! 最後はヌレヌレのまま、全員で大乱闘?』


 V8とミカ・ローストの対決を収めた第一報は、まだタブロイド版のスポーツニューストピックであった。しかし、次に届いたこのアーカイブのタイトルは完全にゴシップ雑誌の釣り見出しである。

 内容はサバンナでのV8とルッキオーネの戦いを収めたものだ。確かに書かれてあることはそのとおりであるのだが、書き方が誤用と誤解と誤認で満ち溢れている。でも誤報ではない。それがなおも一層にたちが悪かった。

 白か黒かと問われれば、【真っ赤な嘘】というよりほかにない。つまりは、『騙すつもりはなかったが、間違った受け止め方をされたならとても遺憾』という反省の欠片もない詭弁いいわけである。

 さらにつづけて、最新のタイムスタンプが押されている別のファイルを解凍する。


『白いビーチで女の子ふたりが謎の密会? 緊縛の金髪美少女はスクール水着の彼女から禁断の仕打ちで思わず悶絶! そこへ憂いを帯びた第三の美女が登場! 激しいお仕置きでふたりは思わず昇天か?』


 ……嘘ではない。最大限の憶測を込めた観測記事である。でも、ほかにもっと言いようはなかったのか、このポンコツどもは。

 そして、この釣る気満々の情報に目を通した擬人化姫アマデウス・プリティ、【電脳王女】ルミナス・シャインは……。

「あはははは! なーによ、このしょうもないファイル名は!」

 意外と受けていた。ウソだろ、お前……。

「こんなので騙されたり喜ぶのは、疲れたオジサンだけじゃない。なに、考えてるのよw」

 ……………………悪かったな。

 「でも、このガイアちゃんていう子はちょっとやばいわね。一体、何者よ?」

 任意の空間座標に映像を固定表示する技術、【EYEフィールド・スクリーン】。そこに映された栗毛色の長い髪の女の子。みずからを【ガイア】と名乗り、ふたりの擬人化姫アマデウス・プリティを相手取り、ほんの一撃で両者を撤退まで追い込んだ高い能力。正体不詳な存在にルミナスは怪訝そうな顔つきで画面の中の相手を注視する。

「わたしみたいな【ハズレ】の擬人化姫アマデウス・プリティってわけでもなさそうだし……」

 額に指を当て、悶々とした心情を吐露した。そのとき、またしても頭のてっぺんに受信アイコンが浮き上がり、着信音が鳴り響く。

「まーた、新情報? アルゴスちゃんたち、がんばるねえ」

 届いたフォルダに記された文字列は短く【ATTENTION】のみ。ボケる暇さえ惜しかったのか容量も軽く、いくつかの画像ファイルが格納されているだけだった。おそらくは動画化のコーデックをする手間さえ省き、いくつかのキャプチャー画像を切り取りしたのだろう。

「どーれどれっと……」

 どこからか本物の黄色いフォルダを持ち出し、その中から本当に画像ファイルを手に取った。

 在りし日の医療ドラマの役者よろしく、ファイルをまるでレントゲン写真診断のように頭より高く掲げ、撮影された画像を吟味する。

「え? う、うそ! なによ、これ……」

 撮られていた内容にひどく驚いた気配のルミナス。血相を変えて、その他のファイルも次々に確認していく。

「これはちょっとだけ、やばいかもね。なんとか手を打たないと」

 情報を総合的に判断し、慎重に対策を思案する。

 だが、そう簡単に問題解決とはいきそうにもなかった。想像の中の迷宮で答えを求めてさまよいつづける。虚構迷宮の檻の中で少女は一時停止したままの映像に目を奪われた。

 スクリーンに映える栗毛色の長い髪。ガイアと名乗った謎の少女がその美しい姿を見せている。

「……まあ、どっちみちわたしたちだけじゃ、どうしようもないのよね」

 そして、なにかを決意したようにルミナスが表情を引き締める。

「会ってみるかなぁ」

 小さくつぶやいたあと、彼女の頭に走査線が走った。そこから徐々に少女の身体が上から順に消えていく。すべてが終わったあと、残されたのは気まぐれにキラキラと輝く無数の列柱石だけだった。

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