パーティーメンバーが強すぎて嫌になったので偽装死して逃げ出して辺境の地で子供達に魔法を教えることにしました〜教える事が何も無いはずのパーティメンバーも教えを請いに来てちょっと気まずい〜

水水

第1話 逃走日和の今日。デコイを置いて逃げ出した

 パーティ。

 その言葉を聞いて思い浮かべるのは、共に助け合って戦う人達のこと。


 でも今のこの状況はどうだろうか—————



 「ノエル‥‥‥‥‥そっち行った」


 「任せて。はぁぁ!!」


 人間の3倍もの大きさの魔物を軽々と叩き斬った。


 そして次に現れたのはそれよりも遥かに大きい竜種。

 次こそは俺も攻撃を————



 「星降炎シューティングインフェルノ!」


 「氷槍アイシクルスピア!!」


 最強の種族と名高い竜種は、2人の攻撃により丸焦げ串刺しになり地に落ちた。

 先程まで『空を統べる者』に相応しい風貌だったのに今となっては虫の息。


 うん。パーティメンバーが強すぎる。

 俺が活躍する間もなく魔物が討伐されていく。


 こんなんじゃ助け合うんじゃなくて、助けられっぱなしじゃないか。

 このパーティーに俺がいる意味とは‥‥‥‥‥?

 

 そんなモヤついた気持ちのまま、パーティーホームへと帰宅するのだった。




 


 それから1週間後—————


 黒く塗りつぶされたような空に散りばめられた星々。

 それを自室のベッドの上で眺めながら物思いにふけっていた。


 だってここから見る景色はこれが最後だから。


 



 パーティーにいる存在意義が見出せなくなってきた今日このごろ。

 俺はこのパーティーに居ることが嫌になっていた。

 

 魔物討伐のクエストを受ければ、俺はずっと守られてばかりで攻撃の機会すらなく魔物が討伐されていく。


 そりゃ勿論、守ってくれているのはありがたい。

 でも俺としては皆と足並みを揃えて魔物と戦いたかった。


 どれだけ訓練しても縮まらない仲間との差。


 その劣等感も俺の気持ちを蝕んでいった。


 「皆、こんなお荷物な俺をずっと背負ってくれてありがとう。じゃ、また」


 聞こえるはずのない別れの挨拶を告げて部屋を出た。


 勿論、何もせず出たわけじゃない。

 

 飾りSランクの俺と違って、彼女達は本物の実力者だ。

 そんな彼女達が本気で探したら俺なんてすぐに見つけられるだろう。

 

 だから探す気も失せるように、俺の練り上げた魔力で作られた傷だらけのデコイを置いておいた。


 そしてそのデコイは1週間かけただけあって最高の出来栄えになっている。

 見た目は言わずもがな、皮膚の感触、匂い、血、死亡した時に発生する微量の魔力の放出、薄黒い瞳。全てが完璧だ。


 

 ‥‥‥‥でもここで気づいた事が一つある。


 

 「そもそもお荷物の俺が失踪したところで気にしないのでは?」


 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥。


 本当に今更である。


 まぁ‥‥‥‥‥‥でも。『Sランクパーティーから逃げ出した人がいる』なんて知られたら、パーティー内で何かあったのではと、あることない事囁かれるかもしれない。そうなった時困るのはパーティーメンバーの皆だ。


 だから死亡したってなった方が皆的には良いのか。


 黒く塗りつぶされたような空に散りばめられた星々。

 そんな綺麗な風景を見ながら移動できる逃走日和の今日。俺はパーティーホームにデコイを置いて逃げ出した。

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