魔法のスパイス

@baketsumogura

魔法のスパイス



地表はひび割れ、植生は汚染物質の下に埋もれていた。生き物たちは骨と皮だけの状態だった。食糧危機の時代。人々は地中から栄養源を採取し、昆虫タンパクを摂取し、汚染された水源の沈殿物をすすった。大気は有害物質で澱み、太陽光は遮蔽されていた。


そんな世界に、転機が訪れた。地層の亀裂から発見された白い結晶「魔法のスパイス」。少し振りかけるだけで、どんな食料も劇的に美味になる物質だった。人々は歓喜し、飢餓を忘れた。


ただ一人、古い料理人は眉をひそめた。「本物の味を偽るなんて、料理の冒涜だ!」だが客は他に流れ、ついに彼も魔法のスパイスを手に取った。その瞬間、長年の技術は色を失った。


商人は目を光らせた。魔法のスパイスを集めまくり、飢えた人々に法外な価値で交換する。「欲しがる者が多いほど価値は上がるのさ」と笑った。詐欺師は砂を混ぜて偽物を作り、本物を知らない者に押し付けた。


運び屋は危険な採掘場と村を結ぶ道を牛耳った。護衛と共に白い粉を運び、暴利を貪った。投資家は魔法のスパイスの未来に賭け、巨額の富を掴んだ。


やがて、魔法のスパイスは交換の中心となった。物々交換の価値は日々変わった。工具一式が魔法のスパイス一握りと同じ価値になり、燃料や水もスパイスで取引された。人々はそれを「ホワイトゴールド」と呼んだ。


権力者は配給を始めたが、闇の取引が栄えた。密売人は洞窟の奥で交換し、追手を逃れた。組織は広がり、巨大な勢力が生まれた。


権力者は誇った。「我々は食を革新した!」関連する商売は荒野を覆う勢いで伸びた。


だが、誰も知らなかった。この「ホワイトゴールド」が、いつか遠い未来の時代に「塩」と呼ばれることになる、人類にとって最も重要な調味料の一つだったことを。原始の人々がその白い結晶に魅せられたように、未来の人類もまた、その味を求め続けることになるのだった。

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