第23章「拡散の先にある不安」
6月26日(月)昼休み。
購買部前はいつものように混雑していた。カレーパンを求める男子生徒の列、コッペパンを片手にベンチでくつろぐ女子たち、そして何かのチラシを手に声を上げる生徒の姿があった。
「灯台保存プロジェクト、次なる企画は――こちらですっ!」
人だかりの中心にいたのは、もちろん愛未だった。
手にはカラフルに装飾されたパネルボード。目立つように星やハートのデコレーションが施され、中央にはでかでかと《灯台青春ドキュメンタリー!〜光をつなぐ365日〜》の文字が。
「撮りためた映像、いっぱいあるでしょ? ね、雄大くん、あの夜の灯台とか、海風に吹かれてぼーっとしてたやつとか!」
急に話を振られ、雄大はむせそうになった。
「えっ、あれ俺、たしか寝ぼけてただけで――」
「それがいいの! リアルでエモいの! 編集は私がやるし、字幕も付けるよ。バズらせるから!」
(バズらせる、か……)
雄大はその言葉を飲み込んだまま、ボードを見つめた。
彼女が悪気ないのはわかっていた。ただ、灯台修復の活動が「数字」や「見せ物」になっていくようで、どこか胸の奥がざらついた。
「でもさ……みんな、映ってること知ってるの?」
ぽつりと、雄大が問うと、愛未が目を丸くする。
「もちろん、許可取るよ? 編集前に確認も取るし、NG出たらカットする。そこはちゃんとするから安心して!」
その明るさに圧倒されながら、雄大はうなずいた。
――ただ、それでも、心の底に引っかかるものは拭えなかった。
「オレ、ちょっとだけ考える。悪くないと思うけど……なんか、気持ちの準備が」
「うん、そういうところ、雄大くんっぽいね」
笑って肩を叩いてから、愛未はボードをたたんで手に持った。
「でもね、私、本気で思ってるの。
このプロジェクトって、ただの“修復作業”じゃなくて、みんなの青春が詰まってると思うの。
それが誰かの心を動かして、次の協力につながるなら、やってみる価値あると思うんだ」
そう言い切る彼女の言葉に、雄大は思わず見入ってしまった。
(……迷ってるのは、俺の方かもしれないな)
鐘の音が鳴って、昼休みが終わる。
二人は歩き出した。
「愛未さん、動画のこと……今度、話し合いの場つくってもらえる?」
「もちろん! 誰か一人じゃなくて、みんなで決めるのが一番いいよね。
じゃ、また放課後、図書室集合ね!」
雄大が小さく笑うと、彼女はピースサインを残して人混みに消えていった。
その背中を見送りながら、雄大は思った。
(俺も、誰かに伝えられる“灯”を、見つけたいんだ)
光の差す窓辺に、潮の香りがほんの少し混じっていた。
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