すこし未来の、脳みそ天ぷらガール
@misora_nea
一章
NSってなに?
放課後に寄ったファミレス。だらしなく座って、めくれたスカートから太ももを無防備にさらしたユズカは、スマホを振りながらニヤついた。
「うそでしょ、マツリ。NSやったことないってマジ?」
わたしは首をすくめて、頬をかいた。
「なんか、聞いたことはあるけど……。でも、頭に誰か入ってくるんでしょ? それって……気持ち悪くないの?」
「逆。気持ちいいの。めっっっちゃ、ね?」
ユズカはそう言って、笑いながらスマホを開いた。アプリのアイコンは銀色の脳みそに虹のエフェクト。「ほら、これ。登録すればすぐにでも出来るよ。わたしなんか昨日、オナニーしただけで1万入ったし」
「やめてよ、そういうのでかい声で言うの……」
「マツリってさ、感度やばいでしょ? ね、正直言って。前から思ってた。背中を指先で撫でただけでゾワッてなってるの、バレバレだし」
「……なってないもん」
「うっそ、バレバレ。たぶんもうね、ポスおじにとっては垂涎の的。いや、垂涎の……脳?」
「ポスおじ?」
「そう。ポスト・ヒューマンっているでしょ。金持ちの中年とか老害が、肉体捨ててクラウド上に引っ越したやつら。あいつら、もう体ないから快感とか味とか感じられないの。で、それを補うために――うちらに接続するの」
「……え、どういうこと? 接続って……どこに?」
「脳。みんな頭に挿してるでしょ?あのインプラント。NSやってる子は、ちょっと改造してあって、ポスおじがそこに“ログイン”してくるの。んで、うちらが気持ちいいと、それが向こうにも届く。向こうも一緒に感じてる」
「うわ……なにそれ……やば……」
「まあね。けど、変な話、別に何されるわけでもないの。私は、たとえばオナニーして1万とか。美味しいごはん食べるだけでもけっこう報酬出るよ。ちゃんと感じれば、だけど」
「“ちゃんと感じる”って……?」
「あっちが見てるのはログとかじゃなくて、リアルタイムの“感覚”なんだよ。だから、演技は効かないの。感じてないと、向こうも感じられない。自分が気持ちよくならないと、成立しないの。ガチで」
「え、じゃあ……逆に気持ちよくなればなるほど、いいの?」
「そうそう。感じたぶん、報酬も増える。で、人数も増えれば、共鳴するの。向こうが感じてるのが、こっちに返ってくる。だから、2人3人って同時に繋がると、倍々ゲームでやばくなる」
「それ、なんか危なくない?」
「うん。だからやりすぎると脳焼ける。フライアウトって言うんだけど……まあ死ぬ子もいるらしい。噂だけどね」
「……って、なにそれ。怖っ」
「怖いけど、だから稼げるってとこもあるんだよね。私はそこまでやらないけど、そういう子もいるって話」
「……なんか、エロいよりヤバいって感じだね……」
「でも、気持ちいいし、金になるし、自分の体に触ってるだけでバイト代もらえるって普通に考えて最高じゃない?」
ユズカがケラケラ笑う中、わたしはスマホの画面を覗き込んだ。登録画面。名前(偽名可)、感度チェック、顔認証。フツーにあるSNSアプリみたいで、そこに“感じる”ことが金になる機能が埋まってる。
「……これで、ほんとに稼げるの?」
「うん。身体ひとつで、ポスおじ何人も繋げるし。感度次第で、報酬も跳ね上がる」
「でも……わたし、そういうの、初めてだから……」
「最初は軽いのからでいいんだって。たとえばさ、アイス食べるだけとか。コンビニスイーツでも反応あるし」
わたしは無言でスマホを見つめた。アイスを食べる。誰かがその甘さを、一緒に味わう。自分の「感覚」を、誰かが感じる。
なんとなく気持ち悪い。でも、ぞわっとする。心のどこかが、なにかを待っているような。
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