穢れなき者たちの108の狂想曲

有馬千年

性癖博覧

 僕は、せんをしています。ゲイ男性向けの性風俗ですね。

 源氏名は、「そうや」っていいます。あおいって字に弥生やよいの弥で、蒼弥そうやです。

 かれこれ10年近くにはなるでしょうか。はい、始めてからもうそのぐらいですかね。

 おかげさまで、すっかりベテランキャスト扱いになってしまいました。嬉しいんだか情けないんだか。

 そうです、売り専なんてのは普通、若い子が小遣い稼ぎに足かけ半分でやるようなパターンがほとんどで、大体みんなすぐに辞めたりマネージャーだとかの管理職に昇進したりします。

 そんな中で、ずっとプレイヤーで居続けるっていうのは、別に大して見上げるようなことじゃないんですよ。

 と言っても、僕自身まだそこまで老け込んだ歳ではないですよ。今だから言える話ですけど、働き始めたの、未成年の頃なんで。当時はそんな子たち、ザラにいました。身分証偽造したり、10代って分かってて雇用するイリーガルな店とかもあったりしてね。ちなみに僕の場合はそのどちらにも当てはまっていました。繰り返しますけど、今ほど規制が厳しくなかった時代でしたから。

 そんなわけで、もてなしたお客様の数だけで1000人は超えています。もちろん数えたわけじゃありませんが、一日の呼び入れ数とか出勤日数、勤続年数などから平均すると、最低でもそのぐらいです。プライベート含めたら…また桁が変わっちゃいますが。

 お客様の中にも変わった方は数多くいましたけど、今回は僕自身の話なんですよね。でしたらそこは省きます。

 僕の性癖…そうだなぁ、なんでしょうか。あ、ちなみに性癖せいへきっていう言葉、本来はその人の性格とか性質、程度の意味らしいですけど、今ではみんな性的な嗜好しこうって意味で使ってますね。後者の意味での性癖、って言葉が、今後たくさん出てくるかもしれません。

 おっと、話が逸れました、すみません。僕の性的嗜好ですね、やっぱり、「一人の人間の素の状態を観察すること」、てなもんでしょうか。僕がこの仕事に興味を持ち、そして選び、続けられている理由はそこかなぁと思います。

 好きなんですよ、肩書きとか気負いを、衣服と一緒に脱ぎ捨てて本来の姿になった人を見るのが。

 ちょっと気取った言い方しますけど、秘匿ひとくされた花、ってとこかな、その人が他の誰にも打ち明けられずに隠し持っている願望をさらけ出してくれるのがたまらなく嬉しい。そのためだったら、僕にできることなら極力手助けしたいと思う次第なわけです。

 素裸になった状態って、ある意味その人の中心というか、いちばん奥深くにある姿じゃないですか。

 マトリョーシカの最後というか、玉葱たまねぎの芯というか、そういうものにたとえられそうで、なんだか相手の本質に迫れたような気になれるんですよね。

 人は、様々な武装で己を飾ってますよね。先輩としての威厳とか、男としての甲斐性とか、そういうのです。

 それらが全部取り払われて、エゴ丸出しの、時に稚拙な、時に歪曲した欲求を僕に披露してくれるんです。これ以上のよろこびってありませんね。

 僕にしてみたら、どんな嗜好でも大歓迎だし、別段驚きません。「それを見せてくれた」という事実自体に興奮するんです。

 見た目のタイプとか好みの年齢なんてないですね。若かろうが年寄りだろうが、イケメンだろうが不細工だろうが、ましてや巨根だろうが貧粗だろうが僕には関係ありません。ただし僕はゲイなんで、男性であってほしいなあとは思うのですが。

 これを聞いているあなたにも、ぜひあなただけの性癖を僕に見せてほしいです。どんなに奇特なものでも受け入れるし、気持ちよくするお手伝いしますよ。おちんちんがある人限定ですけど。ははは。

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