第3話

暗い穴の中③




「…意外にもBはそういやな素振りは見せず、防空壕の穴に入ったボールを取りに向かったんだ。すると、Aが脇で見学していた女子に声をかけたよ。”C子、一人じゃBがかわいそうだ。お前も行ってやれ”って。当然彼女は、怖いからって嫌がったが、もう一人の女子とAが彼女を強引に穴の中へ押し込んじゃったんだ。でも…」


どうやら、Bは確信犯で、暗い穴の中に彼女であるC子と二人で入ることを望んでいたと…。

そして、C子も表面上では嫌がりながらも、彼と防空壕跡の暗い空間でスリリングな体験はまんざらじゃない…、父はそんな様子に見てとれたと言うのです。


「もう、4人の世界ではしゃいじゃってたな。卓球の試合はそれまでで、Aともう一人の女子、D子は卓球台を畳んで穴を塞いじゃったよ。大笑いしながら…。俺はもう用済みだったのが分かったから、Aに断ってその場から立ち去ったんだ」


この辺りから、父の顔つきが明らかに変わってきたのが、私には感じ取れました。

そして父の口調も…。



...



「…おかしなことが起こったって聞いたのは、数週間してからだった。その日の午前中、次の授業が終わってもBとC子が教室に戻らないと、俺のクラスにまで伝わってきた。結局、午後の授業が全部終わってもまだ戻らない、どこへ行ったんだって大騒ぎになったあと、昼休みに二人がいたと…。なんと、あの穴の中で抱き合ってたそうだ」


私はちょっと背筋に寒さを覚えました。

それは、一瞬の間にいろんなことが頭の中に浮かんだからです。


「お父さん、それって…」


「…その後も二人は何度も穴に入っていたよ。廊下ですれ違ったりすると、どこか変だった。目つきとか、歩き方とか…。校内では防空壕の霊に憑りつかれたとか噂が飛び交ってね。明らかにあの穴へ二人で入ったせいだろうし、そうだとしたら俺には責任がある。それでAに本当のことを先生に話そうと言ったが、AとD子は既に怯えきってて、俺を避けて取り付く島がなかった。お父さんな、迷った末、一人でBのクラス担任に本当のことを話したよ」


「そう…。お父さんはやっぱり偉いわ」


私がそう言ったあと、隣に座っているお父さんは私の方に顔を向けました。

しかし、そのお父さんの目は、とても辛そうに見えたんです。





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