012 - できましたぁ! -

012 - できましたぁ! -


「201・・・202・・・203・・・お店に到着・・・でっ・・・できましたぁ!」


僕は今、自分のお店の前で右手を空に掲げ震えてる、心地いい疲れと達成感・・・。


「作り始めて30年っ・・・僕の魔法陣が遂に完成したのだぁ!」


ぱこーん!


「痛っ!、だ・・・誰?」


いきなり後ろから頭を叩かれたよ!。


「俺だ」


「ベネットおじさん?」


「俺はおじさんじゃねぇって何度も言ってるだろうがぁ!」


ブライアス王国に帰った筈のベネットおじさんが僕の後ろで立っていた。


がちゃっ


カラン・・・


お店の鍵を開けておじさんを中に招き入れる、休憩中の札はドアにかけたままだ、また僕の平穏な日常が壊されるのは嫌だから早く帰って欲しいんだけど・・・。


「それで、僕に何か用?」














俺の名前はベネット・ブライアス、37歳独身だ。


今俺はアルファ王国に来ている、ここ数十日で3度目だ・・・国境で怪しまれねぇように髪型や身分証明書は毎回変えてるから今回もバレずに入国できた。


王都に入り奴の店に向かう・・・最初来た時に迷った入り組んだ道にも慣れた、店の前に着くと奴が拳を突き上げ一人で騒いでやがる・・・何やってんだ?。


ぱこーん!


俺は後ろから奴の後頭部を張り倒す。


「痛っ!、だ・・・誰?」


「俺だ」


涙目でファビオラが振り返った。


「ベネットおじさん?」


「俺はおじさんじゃねぇって何度も言ってるだろうがぁ!」


俺の何十倍も生きてるこいつにおじさん呼ばわりされる筋合いは無ぇ!。


店の中を通り居間に案内される、ここは俺がしばらく寝泊まりしてた場所だ。


「それで、僕に何か用?」


「お前がこの国を滅ぼさねぇように監視してろって言われてな、またしばらくここで世話になるぜ」


何でそんな嫌そうな顔するんだよ、俺の作った飯を美味そうに食ってたじゃねぇか!。


「誰に言われたの?」


「親父だ」


「・・・僕の平穏な生活を邪魔しなければ滅ぼすなんて事しないけど」


「邪魔したら滅ぼすのかよ!」


「うん」


凄ぇいい笑顔であっさり肯定しやがったぞ!。


「どうやって?・・・お前は魔力を封じられてるし目だって見えねぇだろ」


そう、こいつ・・・だけじゃなくて魔女は全員首輪を嵌められた時に毒と呪い入りの薬液で目を潰されてる筈だ、今だってこいつは俺の方を向いているが視線は微妙に合って無ぇ。


元々魔女の瞳は金色だった・・・これは歴史の本にも記されてる事だ、触っただけで手が爛れるような猛毒で人間に光を奪われ血のような赤色に変わったと言われてる・・・。


「・・・」


いや何か言えよ!


「あれから兄貴が毒を盛られて倒れた、それに親父が散歩中に刺されてな」


「え?」


「お前のくれた薬のおかげ2人とも無事だ、親父の場合は筋肉がナイフを通さなかったから無傷なんだが」


「それがアルファ王国の仕業って事?」


「そうだな・・・ロドリゲスがそう言ってた」


「ロドリゲスくんが・・・」


あのおっさんを「くん」付けかよ・・・。


「そういえばこっちの王様の使いが薬をブライアスに渡すなって言って来たよ、それを断ったら城に連行するって何度も役人?や騎士さんがお店に来た」


「連行されてねぇじゃん」


「うん、あまりにしつこいからみんな眠ってもらったし」


「あ?」


俺は奴に手招きされて裏口から外に出た。


「何だこれ?」


「眠ってもらってるお使いの人達」


裏の軒下には文官らしい奴や騎士が14人、仲良く並んで眠ってやがる。


「もう3日連続だから置く場所が無くなっちゃったの、野晒しは雨が降ったらかわいそうだと思って屋根のある場所にしたんだけど・・・次来たらどうしようかな」


・・・使いの人間を軒下に隠してやがったのかよ、本当に眠ってるならいいが死体が並んでるみたいに見えて落ちつかねぇ!。


どんどんっ!


「魔女殿!、開けろ!」


「・・・」


店に誰か来たようだ、奴を見ると凄ぇ面倒臭そうな顔してやがる・・・。


「・・・おじさんちょっと外で待っててね」


「おぅ」


とてとて・・・


「魔女殿!、城から何度も使いの者が来ている筈だが」


「来てないよ」


「そんな・・・」


「・・・お話があるなら店の中に入って」


どたどたっ


ぱあっ!


「うわ眩しっ!」


どさっ


どさどさっ


会話と音だけで何が起きてるのか分かるぜ畜生!・・・それに今店の中がすげぇ光ったな。


がちゃ


「おじさん悪いけどちょっと手伝って欲しい」


奴に手招きされて裏口から店の中に入ると騎士と文官っぽい奴が5人倒れてた。


ずるずる・・・


「全員眠らせたから裏庭に運ぶの」


文官っぽい男の足を抱えて裏口に引き摺りながらえらくいい笑顔で奴は言った。


「これも魔法か?」


「うん、これくらいの魔法なら自衛の為に問題なく使えるよ、魔法陣もそんなに複雑じゃないから「目で見なくても」起動できるし」


成人してる男を5人、一瞬で眠らせるのが「これくらい」なのかよ・・・やべぇな。


「軒下がもう一杯だ、どうしようかな・・・重ねたらいけるかも?」


綺麗に並べられた男達を前にして奴が呟いてる。


「下に体格がいい騎士を並べて上に文官を積んだらどうだ」


俺は助言をしてやった。


「そうだね、おじさんお願いできる?」


こいつ俺に手伝わせる気満々だ!。


・・・


ずるずる・・・


つみつみ・・・


「終わったぞ、上に積むだけじゃ面白くねぇから向かい合わせで積んでやった、側から見たら抱き合ってるように見えるぜ・・・雑に放り投げたのにこいつら全然起きねぇな」


「うん、僕が死ぬか魔法を解かない限り眠り続けたままだよ」


しれっと恐ろしい事を言いやがったぞこいつ!。

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