007 - えんりけす -

007 - えんりけす -


「それで、魔女の店の前をうろついてた俺を見つけて尾行して来た・・・と」


「あぁ、悪党どもの首を落とす事は出来ても探し出すのは無理だろう、あいつがブライアス王国で活動してた時みてぇに協力者が居るだろうとは思ってた」


「俺もまだまだって事か・・・降参だ、ベネット・ポーン・ブライアス殿下」


「・・・」


「そんな怖い顔するなよ・・・俺の親父は知ってるだろう?」


「あぁ、ロドリゲス・オコスナー、ブライアス王国を拠点に活動してる組織のボスだよな・・・で、お前さんがその息子って訳か」


「そうだ、俺の名前はエンリケス・オコスナー、俺の家は代々白銀の魔女と協力・・・いや、お互いに利用し合ってる関係にある、俺は目の前の男をなんて呼べばいいのかな?、第二王子殿下」


「ベネット・・・呼び捨てでいい、凄腕の情報組織「悪の華」の人間が俺なんかに尻尾を掴ませるなんてありえねぇ、俺をここに来させる為にわざと尾行させた、違うか?」


「そんな事ぁどうでもいいじゃねぇかベネット、これから長い付き合いになるんだ、仲良くしようぜ」




俺の名前はベネット・ブライアス、37歳独身だ。


今俺はアルファ王国の王都にある古びた酒場に来ている、白銀の魔女ファビオラの周囲を密かに調査していたら怪しい男が目に入ったからだ。


俺は男を尾行してここに辿り着いた。


店が開店する夕方を待ち、塗装の剥げた扉を開けて薄暗い店内に入るとカウンターの中で男が俺を待ってた。


えらく胡散臭ぇ男だ、俺の顔を見て慌てる様子もなくグラスを几帳面に磨いてやがる・・・おそらく俺がここに来る事が分かっていたんだろうよ。


ファビオラのやつがブライアス王国に住んでいた頃、彼女は裏の顔を持っていた、もちろんまだ幼かった俺は実際に見てねぇが親父から話は聞いていた。


表向きは力を封じられ大人しく魔法薬を作る薬草店店主だ・・・もちろん俺の国はこことは違い適正な価格で買い取っていたし、納期に遅れたぐらいで文句を言う事は無ぇ。


もう一つの顔は素性不明のハンターだ、ランクは金より上の白金・・・この事を知るのは王族と情報組織「悪の華」の上層部のみ。


「首狩り」と呼ばれ恐れられていたその冷酷非情のハンターは魔物はもちろん人間の首も狩り落とした。


依頼元はギルドや街の住民、貴族や王家だ、奴は決して表に出ず依頼者との交渉には代理人が立てられていた、その代理人ってのが「悪の華」のボスであるロドリゲスだ。


俺はこの国での協力者が「悪の華」の可能性が高いと考えていた、そしてエンリケスの「俺の親父は知ってるだろう?」って言葉で確信を持った。


「そんなとこで立ってねぇでこっちに来て飲めよ、これは俺の奢りだ」


コトッ・・・


エンリケスがカウンター越しに琥珀色の酒が入ったグラスを置いた。


ぎしっ・・・


店の中は古いが綺麗に掃除されている、俺は椅子に座りグラスを手に取って眺める。


「心配すんな、毒は入ってねぇ」


「・・・」


グラスを傾け酒を口に含んだ、焦がした樽で長期熟成させた酒特有の甘い香りと共に焼けるような刺激が喉を通る・・・強い酒だな!。


だが。


「美味いな」


「だろう、こいつは常連にしか出さねぇ酒だ」


少し隙間のある前歯を見せてエンリケスが笑う。


「それで、俺をこんなとこに誘い出して何か話したい事があるのか?」


「・・・ベネットも俺に何か聞きてぇ事あるんじゃねぇか?」


俺はもう一度酒を口にする。


「・・・」


「・・・」


「おいおい俺は野郎と見つめ合う趣味は無ぇぜ・・・なぁ、ベネット、俺から情報を買う気は無ぇか?」


「情報?」


「・・・お前んとこの国王が犬っころに噛まれた、王太子は容疑者を捕まえ尋問、だが口を割る前に誰かに消されちまった・・・」


「もうそこまで捜査が進んでんのか?、初耳だな」


「アルファ王国の誰が絡んでて、何を企んでるのか知りたくねぇか?」


「知ってるなら話せ」


「有料だぜ」


「チッ・・・今は手持ちがあまり無ぇ」


「俺とお前の仲だ、ツケにしておいてやろう」


「お前とは今日会ったばかりじゃねぇか!、いいから知ってる事話せ!」









俺はエンリケスの店を出た後もう一軒別の酒場で飲んだ。


飲まなきゃやってられないぜ、エンリケスの情報はアルファ王国とうちの国を揺るがすとんでもねぇ内容だった。


時間はもう真夜中だ、俺は店に戻り裏口から中に入る、もちろん俺がこの前蹴破った扉はきちんと修理したぜ。


かちっ・・・


部屋の中は真っ暗だ、俺は壁に付いてる魔導灯を起動させた。


「うおぉぉぉぉ!」


思わず叫んじまった!、奴が・・・ファビオラが居間のソファに座りこっちを見ていた、いや、視線は俺から僅かにズレてるが、こんな真っ暗な部屋で何してんだよ!。


「お帰りなさい、ベネットおじさん」


「おぅ!、起きてたのかよ、こんな時間に何してんだ?」


「・・・」


返事が無ぇ・・・


くぅぅ・・・きゅるる・・・


奴の腹が鳴った。


「腹減ってんのか?、なんで飯を食わ・・・」


そこまで言った時、俺は思い出した!。


「レストラン・ロカのステーキセット・・・」


震える声で俺が呟く、ステーキセット買ってくるからな、楽しみに待ってろ!・・・そう言って俺は昼にここを出た筈だ、エンリケスの話を聞いたせいですっかり忘れてたぜ!。


ふるふる・・・


「もしかして忘れてたの?・・・僕の夕食」


ぽろぽろ・・・


奴の赤い瞳から涙が溢れた。


「ぐしっ・・・うりゅ・・・」


ローブの袖で鼻水拭くなよ・・・


「すまねぇ!、今から買いに行って・・・いや、もう閉まってるよな!」


がたっ・・・


とてとて・・・


くぅぅ・・・きゅるるる・・・くるるる・・・


派手に腹の音を鳴らしながら奴は自分の寝室に歩いて行った・・・やべぇ!、凄ぇ怒ってやがる!。

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