第19話 宇宙崩壊

その後も別の変な映像が映った。初め宇宙戦争だと思った。


よくみていると、宇宙が崩壊していくそのただ中にいた。無数の大きな星々が赤黒く燃え上がり、みんな今にも爆発しそうに膨れ上がっている。


恒星ばかりではない。本来なら摂氏マイナス数百度に、冷たく冷え切っているはずの惑星など、すべての星が激しく燃えている。


辺り一面、真っ赤に熱く燃え盛っていた。丸い大きな星が赤黒く燃えている、不吉な滅びの宇宙空間が、そこには広がっていた。


まぶたにはまるで地獄絵図のような、映像が映し出されている。

そこに生命の息吹はない。


『これはなんの映像なのか。なぜまぶたにこのような映像が映るのか』

気味が悪い。吐き気がする。


そんな地獄のような宇宙空間から、誰かがどこかへ、必死で逃げようとしていた。


『宇宙船の中からみている』

まぶたの映像は、宇宙船で脱出をしている人物の視点からの物らしい。


リアルタイムのできごととして、テレビ中継のライブ映像をみているようだ。

逃げ出そうとしている乗組員が、宇宙船の中から外の世界をみていた。


地獄のような世界から、誰かがどこかへ必死で逃げようとしている。

その誰かの記憶がまぶたに映っていた。宇宙が滅びようとしている中で、どこに逃げられるというのか。


恐らく誰一人助かってはいない。

『これは、いったいどこの宇宙の話なんだろう』

自分か、他の誰かの運命なのか、どこかから誰かが脱出しようとしている。


『暮らしていた星から逃げている。なにに乗って逃げているのだろう』

他の乗り物は映っていない。


みえないけど、たぶんロケットに乗っている。ロケットの窓からみている景色だった。きっと宇宙船だ。


『内部はみえない』

今の地球より、もっと高度に文明が発達していたらしい。


『どこへ行こうとしているのだろう』

あのようすでは、どこにも逃げ場はない。


『この映像はこの宇宙ではない』

どこか他の宇宙なら、それはどこだろう。崩れてしまっている宇宙なんだから、残っているはずがない。


この銀河系の宇宙はある。崩れたのはあの宇宙一つだけらしい。連鎖反応で次々にすべての宇宙が崩壊するということまでもはなさそうだ。


なんだか、花純は少しだけ安心した。

『崩壊しかけた宇宙から必死で脱出をしている』

もし高度に文明が発達していて、他の宇宙の存在を知っていたとしたら、他所(よそ)の宇宙への脱出を試していたのかもしれない。


『宇宙が崩壊するときは、空間が捻じれて消滅するのではないか』

と花純は思っていた。


だが違っていた。この映像がすべて真実だとは限らない。もしこの通りだとすると、

この宇宙の場合、崩壊は全部の星が一気に大爆発を起こして、燃え尽き、やがてまるで泡粒が消えるように消滅していた。


逃げているのだから、脱出する時間と方法はあったのもしれない。

たとえ脱出できたとしても、この宇宙の外にまで逃げる方法を見つけていたのだろうか。


これはいったいどこの宇宙の、どの世界のことなのだろう。

『私、それとも他の誰か』

が脱出している記憶が映っている。


宇宙船のような乗物に乗って、必死に脱出を試している途中で、窓から滅んでいく外の世界の様子をみていた。こんなことになってしまった原因はなんだったのか。


宇宙が崩壊するほどのできごととはなにか、花純には想像がつかない。

その悲劇の主のみつめている記憶が、今、花純のまぶたに映っている。

この記憶の主は、助かっていない。記憶だけを残して、転生した。

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