雨が殺した
三造
雨が殺した
雨に打たれて人が死んだ。打たれた場所が悪かったらしい。彼女は傘もささずに歩いており、突然道端に倒れた。居合わせた人間が救急車を呼んだが、運ばれた病院でそのまま死んだ。
彼はここ暫く死んだ妹を不可解な心持ちで思案していた。雨に打たれて人が死ぬだろうか。その日は台風ではなかった、雷はなかった、交通事故はなかった、監視カメラに不審者はいなかった。彼女は持病を持っていなかった、低体温症でもなかった、恨まれてもいなかった。これらは捜査や解剖で確定した事実であって、現実が確実なものとなった時、出来ることは想像力を働かせるか、現実の事実を再確認するかだけである。
彼がその現実の事実を確認しうちひしがれている間、周囲の人間は何か理論的な、また独創的な物語をつくる様に想像力を働かせた。その全部が彼女は雨に打たれて死んだ訳ではないという方向に言葉が続いていた。けれどもどれも想像の域を出なかった。
そこで彼はそれらの物語を踏まえて、自分で想像力を働かせた。別の死因を隠す為にそういっているのではないか、しかしそう考えると世界が自分を騙そうとしていることになる。ありえるだろうか、こうなるとまた別の謎が浮かんできてしまう。次に自分を疑ってみた。これは夢なのではないか、もしくは記憶違い。これはありえそうだ。確かに妹は死んだ、けれども死因は雨ではない。もちろん彼は動転していたし、現実から目を背ける為の何かを想像したのかもしれない。そうだ、きっとそうだ。彼は妙に納得し、この日は暫くぶりにぐっすり眠れた。
いつもの決まった時間、規則通りに刑務官は見回りにきた。すると殺人罪で服役中の彼が自殺しているのを発見した。
雨が殺した 三造 @richou
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