第11話 まだ水族館は続くよ【水族館】
変なデートだけれども、少しずつ私はこの特殊な状況に慣れてきた。
まず、私と鏡介は恋人として今日が初めてのデートだ。勝手知ったる仲だけれど、こうやって手を繋いだりぎゅっとくっついたりしたことはなかった。保育園の頃はしていたのかもしれないけど、覚えていない。
そして、津田君とはきっと最後のデートになると思う。お互い紹介されて付き合うことになって、何度か一緒に遊びに行ったし相手の家に泊まりに行ったこともある。好きか嫌いかと言われたいい人だと思うし、一緒にいて楽しかった。今回私の知らなかった面を見せてきてびっくりしているけど、津田君は津田君のままだ。
「あ、ニモだ」
「あれはカクレクマノミだよ」
「えっと、これはクリオネだっけ?」
「正式にはハダカカメガイだ」
いちいち理屈っぽいけど、それが津田君だ。悪気もないし、気にするまでもないと私は思う。
「さっきから、いちいちうるさいんだよ」
鏡介はそう思わないみたい。
「そもそも、これは俺と明日美のデートなんだから邪魔すんなよ」
「そうだったね……じゃあ邪魔者は黙ってるよ」
そう言って、津田君は黙って展示物ではなく私たちを見つめてくる。
「だから、そうやって露骨に見るのもやめろって言ってるだろ!」
「じゃあどうすればいい!? タコみたいに擬態でもしろと!?」
うー……やっぱり険悪な感じになっちゃうよね。
「ねえねえ、せっかくだから仲良くしよう……?」
このデートを提案したのは津田君で、目的は私と鏡介がラブラブしているのを見たいからっていうよくわからない理由からだったと思う。じゃあ、今の私に出来るのは……。
私は鏡介の腕を掴んで言った。
「えっと、鏡介。あっちのドリー……ドリーって、なんていう魚だっけ?」
「ナンヨウハギだよ」
即座に津田君が突っ込んでくれた。これで鏡介がイライラすることもないよね?
「そう、それ一緒に見に行こう!」
私は強引に鏡介を「南国の海コーナー」に連れて行った。色とりどりの魚が泳ぎ回っていて、とてもきれいだ。
「鏡介はどの魚が好き?」
「俺は……その、黄色い奴かな」
「ふふ、かわいい! あ、あっちにいっぱいいるじゃん!」
「ほんとだ」
私が鏡介と水槽を見ている間、津田君は何も言わなかった。また魚の名前を訂正してくるかと思ったけど、ただじっと私たちを見ているだけだ。
「いろんな生き物がいるんだね」
「寒いところや暖かいところ、暗いところに明るいところで随分変わってくるからな」
「鏡介はどこがいい?」
「俺は……暖かくて明るいところがいいな。賑やかで楽しそうだし」
寂しがり屋の鏡介らしい答えだ。そういうところは昔から変わっていないみたいで、私は安心した。
私はそっと後ろを見る。津田君はどうなんだろう。津田君に明るい場所は何となく似合わない。今まで津田君と付き合ってきた感じで考えると「一人で暗いところにいたい」って言うかな。ワイワイしているところより静かな場所の方が好きだって言っていたし。
「僕は深海あたりがいいかな!」
「だからこっちに入ってくるなって」
ああ、やっぱり津田君は津田君だ。基本的に真面目で優しい人のはずなんだよな。変な趣味さえなければ、本当にいい人なんだけどな……。
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