"Scorpion"s Short Story

@Future_Craft

俊足のスコーピオンズ

[…もう一度言うぞ、。ターゲットはそのまま亡命を図る気だ]

「ッチ…バックアップは?!」

[奴の方が上手だったよ、お前ら以外はもう全員爆破予告にひっぺがされてる]

「クソォッ!!」

誰にともなく吐き捨てたその言葉を…モロに被弾した声が上がる。

「ごっごごごめんなさいぃ!!私がぁ!!」

「泣き言聞きてえわけじゃねえッ!!…」

この場にいる誰も悪くはない。相手が何重にも上手うわてだっただけ、新人同然の彼女はよくやった。だからこそやり場のない怒りが湧く。

「…本部H Q、他に何か手は?!」

[お手上げではない…座標の駐車場に移動手段アシを待機させてある。緑の車だ、見れば分かるだろう]

「了解、ケリは俺が…」…いや、そうじゃないな。「"俺達"がつけます。」

[うむ…期待している。]

ノイズがかりの通信は切れ、雑踏が残る。

「…よな、行くぞ。」俺が端末で確認した地図は、彼女の眼鏡にも光っていた。


…駐車場。どっちかと言えば建物の隙間に白線を引いたお世辞にも広いとは言えない平地だが。

「ここ…で合ってるよ、な?」「はい。」

彼女が間違えるとは思えない。が一つ疑問を差し挟む余地がある。

「…"緑の車"ってどこだ?」「奥に駐車されているんじゃないでしょうか…多分」

「多分じゃ困るんだよなぁ」などと言いつつ足を踏み入れる。大柄な車が多くて見通しが効かないだけか?


という楽観は粉砕された。正解だったが。

人気のしない駐車場に突然響くエンジン音。うっすら想像していたスポーティーなものではない、バリバリとしたディーゼルの響き。

かけられたブルーシートを振りほどくように後退したは、ステアリングの旋回ではなくその場で車体を向きなおった。

丸いヘッドライト。直線的だが野暮ったさは感じない鈍緑色オリーブドラブの車体。スラリと立ち上がる二本のアンテナ。…いや重要なのはそこではなく、

「…確かに緑で車ではあるが。」

その車に窓は存在しない。代わりとばかりに上に載った金属製の箱には走るのに不要だろう長物76mmが掲げられ、下にはタイヤの代わりに無限軌道キャタピラが履かれている。

それはどう見ても戦車以外の何物でもなかった。

「…なんというか、大きくはあるんですけど…ちっちゃいですね。」

…普通の駐車場にちんまりと佇むサイズ感を抜きにすれば。


[あなたたちですね、私の車長コマンダー砲手ガンナーは。]

「うわ喋った?!!」「"私の"って何だよ、お前は誰だよ」当然の疑問を投げ返す。

[私は"スコーピオン"。急ぎでしょう?早いとこ乗ってください。]

シパシパとヘッドライトを明滅させる戦車の前で顔を見合わせる。

「…ええと、私、ガンナーやります。先輩は…コマンド、お願いします」

「あーしょうがねえな、どっちがどっちの席だ?」

[暗視装置が付いている方が砲手席です。装置のカバーは外しておいてくださいよ]

「テメーでやっとけよそれくらい、要らん仕事押し付けやがって…」「ああの、やります!!外します!!」


車体に飛び乗り、砲塔上で俺から見て右側にあるハッチを開ける。

「戦車なんて数えるくらいしか…」

…などと、ぼやいてる場合ではない。

開いたハッチ越しに見える小さな座席へ身体を突っ込む。


端末で通信を再確立。

「あー、HQ?…ほんとにコレで合ってるよな?」

[間違いない、ソレだ。次の指示を送る。]

合ってるんだ、と小さな相槌。右を見やるといつの間にか砲手席に座る彼女の気配がする。中央には巻き込み防止らしき板があるせいで顔は見えないが。

[幸運なことに目標人物ターゲットは現在高速道路で渋滞につかまっている。君たちスコーピオンズは普通道路で先回りし、対岸側からターゲットを拘束せよ。射撃は非致死性レスリーサル弾のみを許可する]

「おい待ってください、スコーピオンズ?俺らが?」

[そうだ。作戦の完遂を、頼む。HQより、通信終了アウト

なんつークソダサコードネームだよ、と舌先まで出たのを無理やり飲み込む。

[こちらスコーピオン・ドライバー。発進準備完了。]

こんな風に自らをスコーピオンと名乗った操縦手ドライバー席の奴に恐ろしく失礼だ。砲塔と内部空間は繋がっていないが。

「えぇい…ガンナー、状況報告!」

「あっその、スコーピオン・ガンナー、いっ行けます!」…多分、と小声で聞こえた。

「確認よし…コマンダーより総員へ、これより目標捕縛作戦を開始する。戦車前進アドヴァンス!!」


その刹那、激しいエンジン音とともに車体のフロントが強烈に跳ね上がる。

急発進特有の突拍子な加速度。

[左折します]

遠心力は右に横転するかのように…から揺り戻しが襲う。そして前につんのめる。

地獄か?俺らじゃなきゃ頭打って軽く死んでただろ。

「なんだっ…何が起きた?!」

[赤信号です]

急停車で勝手に閉まっていた天井のハッチを開けて上半身を車外に乗り出せば、確かに目の前は数台の車列と赤いランプが点灯している。

「…ドライバー、次からはもっと丁寧に吹かせ」

了解ラジャー

しかしこの荒い運転では視界が狭い車長席に座る方が危険な気がして、ハッチを開け放って身を乗り出したまま信号が変わるのを待った。


次の発進は初っ端の大暴走に比べればだいぶ抑えられたものになった。前にキャップが居るというのもあるが。

「ガンナー、ターゲットはどんな具合だ?」

さすがに落せば回収できない場所で端末を操作できるほどの度胸はない。

「あまり移動していないようです…まだ渋滞に捕まってますね」

猶予は少ないながらもまだ残っている。

…しかし当座の問題として、周囲の車から向けられる好奇の目が刺さる。まぁ街中に戦車が出没したともなれば俺もガン見するだろうから人のことをとやかく言う資格はないわけだが。

「ドライバー、今何キロだ?」

[67km/h]

「…間に合うか?」

この速度で愚直に下道を通れば先回りには苦しいか、と記憶の中の地図が言う。これ以上の不幸が奴に振りかからなきゃ取り逃がすかもしれん。

[コマンダーへ、近道の選択肢があります。所要時間を4分以上短縮可能]

これは僥倖ぎょうこう。…多少の嫌な予感がぎること以外は。

「近道か…ガンナー、構わんか?」

「それは…確保の可能性を上げられるなら、はい。」

「よし決まりだ。ドライバー、近道で頼む。」

[了解。飛ばしていきます]

言うのが早いか、車体は大きく横に振られて住宅街の路地へと坂を駆け上った。


ハッチの枠を掴んでなんとか上体を維持する。確かに生活道路に邪魔な車は殆どいないが…!!

「あのっ、今どっどどうなってますかぁっ!?」

「喋んな!!喋らすな!!舌噛むぞ!!」

今までの2車線道路と比べて狭く起伏の激しい路地をキャタピラが蹴って突き進む。

こんなことをして周りに擦ったり衝突したりは無いのが寧ろ不気味、そう思った矢先に避けられないゴミバケツが盛大に蹴り飛ばされた。

転がり、何回か蹴り飛ばされた挙句に空を舞ったバケツは…

「あっぶねぇ!!」

俺のすぐ横のガンナーハッチを直撃。マヌケな衝突音に情けない叫び声が上がる。

[右折します]

急ブレーキ。その場で旋回。そしてまた急発進。

微妙な下り坂をスキージャンプめいて浮遊感を持ちつつ疾走。

そうして住宅街の区画を2、3個突っ切り、幹線道路に入るところで丁度赤信号に先約がいた。

「ストップ!!」


完全停車の揺り戻しがおさまったことを確認してゆっくりと口を開く。

「…ターゲットの…位置、は…?」

「か、確認…殆ど動きはないです。まだ先は長いみたいですね」

「間に合いそうか?」

「…多分大丈夫そうです」若干反響した声には安堵の色が浮いている。

「わかった。…ただ、念には念を入れていこう」

「了解です」

[ラジャー]

発進に備えて手を掴みなおし、そして信号が青に変わる。


右を向けばオーシャンビューに斜張橋が美しい。実に安定で快適なドライブだ。

…キャタピラの出す騒音が尋常じゃないこと、上半身を乗り出した俺が風を一身に受ける羽目になっていることに目を瞑ればの話だが。

「車が少ない、こりゃ全部高速向こう側に吸い取られてんのか」

「おかげで大渋滞ですが。」

「そう、二重に有難い。ドライバー、今の速度は?」

[95km/h]

法定速度80km/hを15キロもオーバーしてますけど…いいんですかね?」

「何だ、逃げる犯人を追うパトカーは法定速度を律儀に守ってるのか?」

「…確かにそうですね。気にしてる場合じゃありませんでした…ハハ。」

愛想笑いヘタクソだな、そこが…待て、違和感。

エンジン音が近づいてくる。

それとなく後ろを見てみると、こんな真昼間から堂々と速度違反しているのは似合わない白塗りのセダンが一台。

スピードに酔ってるアホならそのまま走り去ってくれるだろう…と思ったが、がら空きの道路で1車線間をあけて並走を始めた。

「…なんだこいつ…?」

目的が、読めない。戦車が走ってる珍光景見たさ…といった雰囲気でもなさそうだ。

砲手席の方からくぐもった声。「何つった?風で聞こえないが」

「あっすいm…」音量が下がるとすぐ聞こえなくなる。「えと、って言ったんです!」

「いやぁ、左に車が並走しててな。どうにも妙で…」

そう言いながら件の車に視線を戻す、と。

後ドアの窓が開いている。後部座席にいるのは…

何らかの銃を構えた人間。


マズい。

それを口に出す前に慌てて頭を降ろす。直後に半ば連続音と化した射撃音と弾丸たまが当たる音が中まで響く。

「うわっ!!」砲手席が怯えあがる。

[コマンダー、状況を報告してください]

「並走してた車の中から撃たれた!!短機関銃サブマシだ!!」

[指示を求めます]

「全速力出せ!!前に出られたらそのまま突っ込め!!」

車長席の頭上周囲に配置された潜望鏡ペリスコープで外を見る。

「あークソッタレ、こんなのアリかよ!!」

ペリスコープの先は正義の象徴、赤と青のパトランプが煌めいていた。

サイレン音が開けっ放しの車長ハッチから大音量で突っ込まれる。

「どっどどどういうことです?!爆弾騒ぎで出払ってるはずじゃないんですか?!」

そう。HQの情報を信じるならば、ターゲットの仲間が流した(と思われる)大規模爆破予告によって警察は全て緊急出動、自由に動けてターゲットを拘束できるのは先約で追っていた俺達のみ…という状況になってしまっている、筈なのだ。

HQの情報と矛盾しないよう状況に説明をつけられる適当な理由を考える。


1.ターゲットと繋がりのあるテロ組織(状況証拠自体はいくつかある)が"スコーピオンズ"の追跡を止めようと覆面パトカー風にデコレーションした車を用意して実力行使に出た


2.この覆面パトカーに乗ってる全員、爆弾騒ぎよりもネズミ捕りを優先する上に警告の前に即射殺する点数稼ぎ至上主義の人格破綻者


3.ターゲットが警察の一部を何らかの手段で買収していた


Q.さて、一番正しそうなのはどれだ。

A.言うまでもない、オッカムの剃刀かみそりを適用する。一番文量が短い3だ!!


一番信じたくない選択肢だが。

「アイツらいくら金積まれたんだ!!」端的な推論結果が口を突いて出る。

「う裏っ、裏切り?!」「多分な!!」

等とやりとりしている間にも断続的に破裂音と衝撃が繰り返される。

「舐めやがって、9mm拳銃弾パラベラム効くと思ってんのか鬱陶しい…!!」

とはいえ、このまま好き放題されるのも癪だし何されるか分からん。この無意味な嫌がらせがブラフの可能性も無くはない。

…手っ取り早く解決するには、やっぱりコレか?

「ガンナー、撃てるか?」

「うっ…撃てるって何を?!」

「こいつをだ!!」

そう言って俺は砲塔の中心軸を占める主砲の尾部、巻き込み防止の鉄パイプを叩く。

「…多分、いけます。装填頼みましたよ。」


「コマンダーよりガンナーへ、射撃目標、左90°!撃ってよし!!」

「了解、低殺傷粘着妨害L E S T弾を使用します!弾頭色、青地に白線!」

俺が車外を見ている間、彼女は彼女で眼鏡越しに砲の扱い方を読み込んでいたらしい。

「LEST、装填ローデット!!」

狭い車内から抜き出した真鍮色の薬莢を砲の後ろから叩きこむ。

「閉鎖器閉鎖確認、照準エイミング!!」

砲塔が彼女の手によって旋回し始める。

サイレン音が後方に移動した。いきなり砲塔が旋回しだして相手はかなり狼狽うろたえているに違いない。

車長側の正面スコープからも相手の顔面が…スモークが強くて全然見えねえな。

「行きます…発射!!」

携行火器とは比較にならない量の火薬が点火され、76mm砲L23A1が爆発音と共に火を噴く。

反動が車体を身じろぎさせ、スコープの外が光で満ちた。砲が後ろに押し込まれ、吐き出された薬莢が床に落ちる。逆流した硝煙の臭い。

「ゴホゴホ…め、命中!!」

閃光のあと、ベタベタした弾薬の中身に絡め取られて無残な姿になった車1台が100km/hで遠ざかる。

「ナイスショット! 砲塔を正面に戻しとけ、もうひと踏ん張りだ」


パトカーとのチェイスでも100km/h巡行していたら、既に湾をぐるりと回って橋の対岸付近。

「さて、ターゲットはどうなってる?」

俺は例によって車長ハッチから身を乗り出しているので端末が使えない。

「移動してます。橋を渡り始めました。どうやら渋滞を抜けたみたいです」

何とか先回りできたらしい。

「さてどうするか…ドライバー、この車両の馬力と重量ウェイトは?」

[出力260kW、重量は8,300kg]

「誰がkWで答えろと…大体350馬力の8tか」

普通自動車に比べて大雑把に馬力は倍、重量4倍。差し引きすればパワーは実質、普通の車の半分だ。

「最高速度は?」

[102km/h、現状速度と同一。]

「…チャンスは一度だな。逃がせば追いつけなくなる。となると…」

考えた末に一番破天荒な案が一番確実だろう、と思い至る。


「出口から突っ込んで待ち構えるか。」

我ながら清々しいほどの逆走宣言にガンナー席から困惑の声。

「ドライバー、高速道路の出口から侵入だ。奴を迎えに行ってやれ!!」

[ラジャー。]

「えっちょぉっ待ってくださいまだ22歳で、あのっ」


「私死にた゛く゛な゛い゛ですっ!!」悲痛な号哭ごうこくが100km/hで街中に振りまかれた。


中央分離帯をキャタピラの走破性で突っ切ってからインターチェンジを逆走して強引に高速へ突入。

俺達にとって高速道路上は全員が正面から逆走してくる危険地帯だ。

相手からしてみたら正面から戦車が逆走してやってくる異常事態だが。

「ガンナー!!ターゲットは今どこにいる?!」

「は…橋の中ほどっ…あああぶつかるっ!!」

相対速度170km/hの世界、事故れば命はないに等しい。遠慮なく投げつけられるクラクション。

「ドライバー、次の非常停車エリアで停めて180°旋回だ」

[旋回は必要ありません、後退でも最高速度を発揮できます。]

「わかった、じゃあ止めて待機だ。合図したら全速力で後退、流れについていけ」


橋の丁度手前のエリアに停車。

「よう、生きてるか?」

車内だと砲の防危板が邪魔だ、隣の砲手用ハッチを開けて確認する。

「あ…ふぁい…なんとか…」顔面蒼白でぐったりしてるが一応喋ったし、目線だけはこっちを見た。つまり生きてはいる、OK。何がだ?

自問はそこそこに砲手ハッチをばたんと閉じ、手元の端末を確認。…舌打ち。

「いい車乗りやがって…」奴の車は無駄にデカい黒塗りの超がつくほど高級車。単純な馬力でもこちらを上回るハイパーカーとのことだ。つくづく嫌な奴だこと。

「しっかし思った以上に走りが速い…ガンナー、行けるな?」

「えっ、あの、も、もうですか?」呂律をギリギリ取り戻した声が狼狽える。

「その通り!ドライバー、出せゴー!!」

「ラジャー、全速後退リバース


「…奴は…あれか?!」

全力後退(逆走ではない)という妙な状態の中で前(風下方向)を見る。

クソデカい上にキズ一つない真っ黒ピカピカの高級車などすぐに見つかった。明らかに雰囲気が浮いてる、というか車線を思い切りまたいで走っている。

「ドライバー、見えてるな?」

[こちらもターゲットの車両を確認]

「車線を塞げ、減速させろ」

[ラジャー、80km/hに減速]

接近しつつこちらも同じように車線をまたぐ。…さすがに爆速バックする戦車に直球で前を陣取られたことに気づかない相手ではあるまい。

一般道レベルに減速すれば、他の車は後ろ(進行方向)へと走り去っていく。

咳払い。そして端末を万一落とさないようにしっかりと握りしめて…宣言。

「こちらは特殊治安維持隊である!!そこの黒色のセダン、指示に従って停車せよ!!」

音質と声はそこそこ酷いがエンジン音をかき消すほどの大音量が響く。

「貴方には外患誘致未遂の逮捕状が出ている。今すぐに指示に従うように!!」

名前を言ってやらないのはせめてものお情けだ。


…しかし、終身刑以上が確定する罪に対してはいそうですかと捕まるならこの世に俺達みたいな仕事は要らないわけで。

相手の車がエンジンを吹かす。やる気だ。

「衝撃に備えろ!!ドライバー、奴の車線に食いつけ!!」

[ラジャー]「あっわいっ!!」明瞭な返事と不明瞭な返事が響く。

急いで車長席にベルトを締める。ハッチは閉める暇もない!

「ブレーキ!!」


衝撃。


うめき声。誰のだ。…俺のだ。

喉の奥からこみ上げる吐き気を飲み込む。咳すらも苦しい。

上を見る。概ね円形に切り抜かれた青空。

「ぐぅ…スコーピオンズ、全員…無事…か?」

不完全に締めたベルトを外し、青空の縁へ左手を伸ばす。

[こちらスコーピオン・ドライバー、問題なし]

「あいてて、て…死んだかと…あ、スコーピオン・ガンナー、生きてますぅ…」


青空の元に自分の身体を引っぱりだす。

目の前の光景は、予想を上回る大の惨事。

重量4倍の差、ついでに銃弾程度なら耐える分厚い装甲材のフロント。

そんなものに激突すれば、一方的に車の顔がグチャグチャになるのも道理だ。相手の車が無駄に高級だったことで命に別状はなさそうだが。

「万事休す、だな。これ以上面倒ごとは御免だぜ。」

遠くから空気を切り裂く爆音が響く。音の方向からはヘリコプターが2機。

「さて、」足まで車外に出て、歪んだ戦車のボンネットから飛び降りる。

取り出すのは手錠と拳銃。脅しにしか使えないが。

分厚めの後部ドアを勢いよく引きはがす…ように開けると、衝撃で気絶した奴の姿。

高級だが気に入らんスーツの襟首ひっつかんで引っ張り出し、両手を後ろに回しに手錠をかけてやる。

「HQへ、14時18分、目標ターゲット確保。任務完了。」


あとついでとして、一応相手の車のトランクから赤い三角形と棒切れを取り出して、申し訳程度に配置しておいた。ここまでして確保したのに轢かれても困る。


「…さて…ずーっと疑問だったんだが」ふと気づいて俺たちの戦車に向き直る。

「ドライバー、お前は一体何モン…だ…?」

車体に登り、向かって右側にある衝撃で半開きになったハッチを水平に、反時計回りに回す。

[…コマンダー?いきなりなんて、ちょっと恥ずかしいんですケド。]

開けたハッチの先、普通なら操縦手ドライバーが座っているだろう場所には、箱型のコンピュータが一台。

そして上向きでヒビが入ったモニターが、カートゥーンめいた表示ウィンドウで俺の事を睨んでいた。

「そんな事だろうと思った…だな。後で交換なおしてもらえ。」

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