ばんばんばーん!
たっきゅん
バンバンバーン!
【 YOU LOSE 】
眼前に表示されたシステムメッセージに呆然とする。死亡による第三者定点視点で周りを見渡すがプレイヤーの姿はない。宇宙からの侵略者により破壊された町に倒れる自身のアバターを見下ろすと復帰カウントが30秒を切っているところだった。
「……なにが起こったの?」
それは不意打ちと呼ぶには鮮やかすぎるKILLだった。事故死、そう言いたくなるような、何が起きたかもわからないままの
〈 Masaru 1P GET 〉
戦況ログに流れてきたポイント獲得情報、それが流れたのが私がKILLされたタイミングだったからだ。
フルダイブ型のVRゲームが普及した現代よりもさらに未来、30XX年の地球を舞台にした
「覚えたからね。《白狼》の『masaru』……」
私、雨宮瑠奈は宿敵にメッセージを飛ばす。
〔 [From:ameru]この借りは必ず返す。首洗って待ってろ 〕
ゲームに存在する5つのクラン、その第一勢力である《青海月》に所属し、それなりに名が通ったプレイヤーであるため舐められるわけにはいかない。ameruの
「よしっ! ふっ――」
パンッ、という音が聞こえた時には再び即死していた。再びの完璧なヘッドショット、もちろん戦況ログには〈masaru 1P GET〉の文字がある。復帰したとたんにこれは流石にキレる。
「ふざけるなぁー! masaru出てこいー! ……メッセージ?」
〔 [From:masaru] 目の前にいる 〕
なぜにメッセージ? ボイスチャット機能がデフォルトでVRヘッドディスプレイには備わっているはずなのにと思いながらシステム画面から顔をあげると黒髪隻眼の厨二チックなプレイヤーがそこにはいた。
「ちょっとー! なんで私ばかり狙うわけ!?」
〔 [From:masaru] 雨宮さんが自分よりゲームの強い男以外は眼中にないって話しているのを聞いたから 〕
「はぁ?! ちょ、ちょっと」〔 [From:ameru] あんた誰? なんで私が雨宮だって知っているわけ? 〕
急展開にオープンボイスでリアル情報を漏らしそうになったがなんとかメッセージに切り替えてやりとりを続けようとした。けれどmasaruからの返事はLINFのIDだけだった。
「これで話せって? 男子の友達登録とかしたことないんですけど?」
終始無表情だったmasaruは用事はすんだとばかりにログアウトしていってしまった。仕方がないので私もログアウトする。ベッドから体を起こしてヘッドディスプレイを外した。負けた。その事実にこれまでゲームに打ち込んできた時間はなんだったのかと虚無感が襲う。
「もしかして……姫プレイでもされてたのかしら」
おだてられ調子に乗っただけの馬鹿な女。そんな滑稽なトッププレイヤーが自分なのだと自己評価が一気に急降下していく。正直気が重いが、明日学校で誰が何を言い出すかわからないためLINFを開こうとスマホを手に取る。するとロック画面に通知があり《お母さん》と表示されていた。
「お母さん、今日も遅いんだ」
大企業の重役である母とは月に一度程度しか一緒に夕食を食べることはない。父もゲームばかりの私に愛想を尽かしているようで一緒にご飯を食べることはない。ゲームだけが私の全てだった。
「ははっ……そのゲームも私を拒絶したんだけどね」
乾いた笑いが零れる。もう私には何もない。ならmasaruのモノになってもいいかと自暴自棄に突入した。
「不破勝正!? あのレトロゲーマーに私が負けたの???」
『雨宮さん、はじめまして。友達登録ありがとう』
「固い硬い堅い! ちょっと、さっきまでのはなんだったのよ! まじめかっ!」
不破くんとのやりとりは男女の初々しさというよりも、ぼっちにできた初めての友達とのやりとりのようにたどたどしい。けれど――その文字列には誠意を感じられ、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
「こいつを見てどう思う? って……なにこれ」
会話を続け、さきほどのゲームでの話を振るとレトロゲーム機で無理やりVRゲームを起動させているような画像が送られてきた。
『実は
そこでは神視点でプレイヤーの位置が表示され、攻撃がどこにいても画面内なら当てられる様子を撮影したスクショだった。ふざけた話だがスフィアと呼ばれる円形のゲームディスクは超多層式だが旧式のゲーム機でも再生できるようだ。試すプレイヤーがおらず未発見な裏技を聞かされてさすがに笑い転げる。だって送られてきた画像は安全のためのカバーは外されてスフィアが剥き出しで回転しているシュールな光景だったから。
「そんなのある??? マジ??? 見てみたいんだけどw」
『今度うちに来る? VR非対応モニターもいるし、雨宮さんちお金持ちだからそういうの無いでしょ?』
「んー……嬉しい申し出だけど男の子の家にいくのはなー。あっ、そうだ」
お金持ちだから、という理由で最新設備が揃っているという不破くんの予想は正しい。けれどお金持ちだからレトロな機器もそろえることができる。
「お母さんに頼めばいいんだ。『来週の誕生日プレゼント、PS2とVR非対応モニターが欲しいなー』っと」
不破勝正、彼とは……いい友達になれた。実際に話してみるといいやつだった。卑怯な手を使わずにちゃんと勝つからゲームは続けてほしいなんて言ってくるとか不意打ちながらも少しだけきゅんとした。
「お父さん、一緒にご飯食べない?」
そして一カ月が過ぎた。私はゲームに引き籠るのをやめた。ゲームは続けているがゲームを理由にリアルを疎かにするのをやめたのだ。あの完敗によってゲームは私の中で人生の優先度が下がったからだ。
「瑠璃、ゲームはいいのか?」
「うん。ゲームばかりやってちゃお父さんみたいになるしね」
愛想を尽かされたと思っていたお父さんは私のために同じゲームを時間を忘れてプレイしていたようだ。なんとも不器用な親子で笑えて来る。
十年後、私は彼から新作のFPSで真剣勝負を申し込まれた。
「今度は堂々と正面から打ち合おう」
「散弾のあめ、不破くんに避けきれるかしら?」
不破くんと呼ぶのもこれが最後になると思う。笑える話だがバグを使って不意打ちしてきた彼は私の好きなFPSを極めて私以上の有名プレイヤーになっていた。すでに恋人関係なのだがその先を私は待ち望んでいるらしい。二人してVRログイン前に顔を見合わせて笑う。
「それじゃあ――」
「「勝負ッ!」」
バンバンバーン!と銃声の鳴り響く大地に今日も降りたつ。誰かに認められたくてゲーム内ランキングを駆け上がっていた。けれどそれももういらない。――私を求めてくれる彼がいるから。
ばんばんばーん! たっきゅん @takkyun
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます