ユーモア小説 冒険王トドマルの生涯(青春篇)

瑠璃光院 秀和

第1章 お宝発見前夜 1

 「さあ野郎共!今日から新しい冒険の旅の始まりだ!行くゾ!」

 「新しい冒険つったって、俺達、去年から一個しか宝箱を見つけて無いんデスガニ~」

 「心配するな、デスガニ君!俺達には素潜りの天才が付いている!飢え死にはしないさ」

 自称、冒険王トドマルは、偶々たまたま、自分の近くにいた青年を指差した。


 「ヘっ?オレ?」

 そうだ、君の事だ!ヘオレ君。我等が食の担い手!」

 「まあ、俺は素潜りが得意っちゃあ得意ですが・・・でも今は極寒の季節ですぜ」

 「諸君!良く聞き給え!人は魚さえ食べていれば絶対に死なない!だが夢を失くしてしまったら、そこにあるのは死のみだ!」

 トドマルは右手を振り上げて、自説を垂れた。


 「そんなもんデスカネ~?まっ、どうせ俺達にはここしか居場所が無いんですから、せいぜい魚を食って何とか長生きシマッサア~」

 「デスカネ・シマッサア君、君は兄のデスガニ・シマッサア君に似て心配性だな」

 「へいへい、分かりましたよ、船長!どうせ俺達兄弟は心配性です。所ででこれから俺達は何処どこに向かうんです?」


 トドマルは「フッフッフッ」と不気味な笑いを浮かべた。

 「鼠穴きゅうけつに入らずんば鼠子きゅうしを得ずだ!」

 「これから虎では無くて、ネズミを捕まえるンスか~?」

 トドマルの近くにいたンスが、トドマルにき返した。

 「そうだよ、ンス君、君はゲルマニアの栄光に満ちた民族、シロネーコ族の出身だったな?」

 「そうなンスけど、それが何か?」

 「このバルトの海は、かつて偉大な君の民族の名前を取って、シロネーコの海と呼ばれていた事は知っているか?」

 「子供の頃に、親父から聞いた事が有る様な、無い様な。でも船長、それとネズミにどんな関係が有るンスか~?」

 ンスは、あやしげな表情でトドマル船長の顔を見た。



 「普通、猫って鼠を捕るのが上手いじゃないの?まあ、ただ言ってみただけだけど」

 「ふ~ん、まあ良いですけど。どうせ俺っちは暇だし。出航前に船倉の鼠退治でもシトキマス」

 「その通りだ!ンス・シトキマス君。船倉の鼠退治は君に任せる!」

 「了解シトキマス!」

 ンス・シトキマスの言葉に大きく頷くと、トドマルは大声で吠えた。

 「いざ行け、我らのマフィン団!戦え、我らのババッチ号!」

 この言葉は「トドの遠吠え」としてマフィン団の中では有名だったが、後世まで誰にも語り継がれる事は無かった。


 「それで結局の所、どこへ向かうんです?トド船長」

 今度はトウシロウがトドマルに聞いた。

 「そうだな、この風向きだと・・・そうだ!ボーンホルム島に向かおう!野郎共、配置にけ~っ!面舵おもかじ一杯!」

 野郎共はノロノロと各自の持ち場に散った。


 「あのう、トド船長。」

 「何だね?トウシロウ君?」

 「折角盛り上がっている所を何ですが、ボーンホルム島はバイキング達が巣食うゴッドランド島の直ぐ近くの島ですよ。もうお宝は残っていないのでは?」

 トウシロウがトドマルに訊ねた。


 「チッ、チッ、チッ。これだから海賊経験が浅いトウシロウ君は困る。君は伝説のおちょくり拳法北海愚神拳の伝承者だが、海賊のロマンの本質を理解していない様だね」

 「海賊のロマンの本質ですか?」

 「その通り!確かにボーンホルム島には、普通のお宝は残っていないだろう。だからこそ想像を絶する凄いお宝の発見に集中出来るって寸法なのさ。その分、凄いお宝を見つけるチャンスが増えるのだよ!」

 そしてトドマルは言葉を続けた。

 「そこいらの普通のお宝なんざ、そこいらの普通の海賊共に呉れてやれ!」

 トドマルは左手で空を指差す、何時もの決めポーズを決めた。


 「トド船長は、1年前にもそんな事を言っていませんでしたっけ?」

 「ぎくっ!」

 「それからの1年間、我がマフィン団が見つけたのは、想像を絶する程、凄く安いお宝が1個だけでしたよね」

 「超安物でも、1個でも、ちゃんと見つけたんだから良かったじゃないか!それにそんな過去はもう終わったんだ。我々の栄光と勝利は、未来にこそ存在する!」

 トドマルはまた決めポーズを決めようとしたが、そこには既にトウシロウの姿は無かった。


 ボーンホルム島への航海の途上、トドマルは「想像を絶する超高価な凄いお宝」を発見した後の対応策を練っていた。

 俺達が凄いお宝を発見した事が知れると、ボーンホルム島を根城にしている海賊共が、間違いなくお宝を奪いに来るな。

 下手したらギルドが乗り出すかも知れん。

 そうなれば、ゴッドランドの街で奴らと戦闘か。


 ウチでまともに戦えるのは、蒙古から出稼ぎに来ている弓の名手の「カスチーン・ヨイチハン」と「トウシロウ」だけか。

 だから、ウチは海賊の本分である商船の積荷ひとつも奪えないんだよな!

 何しろウチの野郎共は弱いって言うか、ナイフを持っただけで足がすくむって奴ばかりだからな。

 その癖、逃げ足だけは早い。

 そう言う俺も速攻トンズラ派だが・・・。

 何れにしても、やはりお宝をゴッドランドに持っていくのはヤバ過ぎるな。

 お宝の絵でも描いて、買いたいという奴をこのババッチ号まで案内して、この船の中で取引するのが一番無難か?


 「船長!ヨイチハンさんが海鳥うみどりを20羽程、弓で射落としましたが引き揚げますか?」

 素潜り名人のヘオレが、大声でトドマルに言葉をかけた。

 「そうだな。魚ばっかだと力が出ないしな。今夜は鳥肉でお宝発見の前祝いといくか!」


 「野郎共、想像を絶する凄いお宝の大発見に乾杯!」

 「オーッ!!」

 トドマルの音頭で、野郎共は一斉に「ラム酒」のさかづきを重ねた。

 戦闘では「超弱っピー」の彼らだが、そこは矢張り海賊は海賊だ。

 酒が嫌いな奴はいない。

 皆、肩を組んで大声で唄いながら、酒を楽しんでいた。


 「トド船長、ババッチ号の倉庫の事ですが・・・」

 デスガニがトドマルに話し掛けた。

 「倉庫がどうかしたのか?デスガニ・シマッサア君」

 「まあ、食い物の方は素潜りと弓矢の名人がいるから何とか成りそうなんデスガニ~」

 「君達も食料調達を両君に頼らずに、自分達も練習してみたらどうだ!弓の方は才能の問題が有るだろうし、君達が無駄な矢を撃ち捲っても困る!だが、素潜りなら誰でも練習すれば何とか成るだろう」

 「嫌ですよ、俺っちは!素潜りは寒いから」

 「あのなあ~」

 呆れるトドマルを尻目に、デスガニ・シマッサアは言葉を続けた。


 「問題は、倉庫に酒がもう無いって事デスガニ~!」

 「何だと?酒がもう無いだと?」」

 「ええ、綺麗さっぱりと。だって俺っち達は、お金なんて持っていませんから。今、呑んでるラム酒だって、グダニクスの街の酒屋から、この前、間違って盗んだ物ですぜ」

 「盗んだだと?それはいかん!正義の海賊マフィン団の名折れに成るではないか!」

 「トド船長が俺っち達に、背に腹は代えられ無いから、間違って盗んで来いと命令したんでしょうが!」

 「えっ?そうだったっけ?記憶にございません」

 「どうする積りですか?トド船長!」

 デスガニ・シマッサアは、トド船長に詰め寄った。


 「どうするって、デスガニ・シマッサア君、その問題を解決するには、一刻も早く、我々が想像を絶する凄く高価なお宝を発見するしか方法が無いよね」

 「だからぁ~、お宝はそんなに簡単に見つから無いっつう~の!トド船長、お宝を捜している間、皆が酒無しで生きて行けるですかい?」

 「う~ん、そ、それは・・・無理。じゃあ、デスガニ・シマッサア君、君に何か良い考えでも有るのか?」

 「本当は、それはトド船長が考える事なんですが、ここは矢張り海賊は海賊らしく輸送船を襲うしか方法は無いのかと!」

 「輸送船を襲うったって、俺達はほとんど全員が超弱っピーだぞ!相手が反撃して来たら何時もの様に逃げるのか?」

 「こっちはこれだけ人相が悪い男達が揃っているんですよ。命まで奪われると思うから相手は反撃するんです!乗員の命と船の安全を保障した上で、酒を半分だけ分けてねと優しい口調で言えばきっと渡して呉れる筈デスガニ~!」

 「成程!流石はデスガニ・シマッサア君、それはきっと良い作戦の筈だ!ボーンホルム島に上陸する前に輸送船を襲って酒を略奪、いや彼らの善意にすがって半分ばかり無料で分けて貰うとしよう」

 「イエッサー!!!」

 デスガニ・シマッサアは、海賊式の敬礼をトドマルに返した。

 「但し、襲うのは俺達でも若しかしたら勝てるかも知れない様な小さい船ね。すごくすごく小さな船、そこ大切!」

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