竜刻のヴァルロマ〜追放された少年は、竜の力をその身に宿す〜

@raraumi

第1話 ロア・リアバルト



二人の少年が、広い校庭にて稽古をしている。歳は二人とも若く、十四歳程の見た目、一人は燈色の短髪で、元気そうな少年。もう一人は色白で、一見少女にも見える少年。


何十回にもわたる打ち合いの末に、とうとうその決着がついた。



「うぐぅ…」


「────よし!また俺の勝ちだッ!」



勝利したのは、短髪の少年。

リュガード王立学園二学年の最優秀生【セイル・マーレン】


敗北したのは、色白の少年。

セイルとは対照的に、学園一の【ロア・リアバルト】であった。




ロア・リアバルトには才が無い。

剣術の才能が無ければ魔術に愛されている訳でも無い。それこそ、ロアがこの学園に入学して初めて学んだ事だった。

同級生からの侮蔑や嫌がらせ、学園の先生からのいびり。それらを耐えて今も学園に通えているのは、今でもロアの中に熱い夢が灯っているからに他ならない。


そんなロアとは対照的に、【セイル・マーレン】は天才だ。

圧倒的とも言える剣の才は、一学年から覗かせ、二学年となった今では単独でワイバーンすら斬り伏せるほどであった。

それでありながら恵まれたルックスと、弱きを助ける気高い精神。天に二物どころか三物を与えられた人物だ。



「……ん、よい、しょ」


パンパンと制服の汚れを払い、その場から立ち上がる、するとこの稽古を眺めていた生徒達から、ヒソヒソと噂声が聞こえてくる。


「ははは、なんだよロアの奴、セイルに一撃も与えられずにのされちまったぜ!」


「無能者がそうなのはいつもの事だろう…全く、何故まだこの学園にいるのやら」


「────でも良いじゃん♪アイツがやられてくれるおかげで、セイル君がより引き立って見える♪」






……耳を傾けたことをすぐに後悔した。

稽古────とりわけ模擬戦をするといつもこうだ。


(…学園に相応しく無いなんて、俺が一番良く分かってるよ……)


自然に、自分自身を否定するネガティブな言葉が浮かんでいた。

今までもそうであったが、最近は特にひどい。




「…んだよ、アイツら────でもまぁ、ロアも強くなんないとなっ!!もうちょっと…もうちょいすりゃあもっと良くなるぜ!!」



「…うん…ありがと、セイル」



その胸に宿った暗い悪感情に蓋をするように、あるいは同級生からの陰口からコソコソと逃げるように、校庭を後にした。


自身の隣に居る天才に、その悪感情を向けてしまわないように。






「────と、このように、勇者とその仲間の英雄達によって今日に至るまで世界の平和は守られている」



次の授業は歴史学であった。クラスメイトも、なんなら俺も嫌いな科目だ。


興味の無い授業などその大体が眠くなるものだが、俺は興味が無い訳では無い、むしろ好きな方だ。では何故嫌いなのかというと……



「なぜ勇者と英雄達が強いのかというと────彼等の所持するが、その強さに深く関係しているのだよ、では権能とは何か?我々が扱う魔法や剣術、変わりものでいったら呪術。それらと何が違うか。それを語るには勇者達と女神様の関係について話す必要がある。では教本の四十二ページ────」



そう、この教師。すごい話が長いのである。周りを見渡して見れば数人か眠りこけている生徒が見られる、中にはセイルもおり、がっつりイビキをかいて眠っている。

そんな眠り方をしていたら教師にバレるのは明確だ。

流石に気づいているようで、そのこめかみにピクピクと青筋を走らせていた。


他の生徒も眠い目を擦りながら授業を受けている、俺を含めてまともに授業を受けれている生徒はいないようだ────いや、いた、一人。


凛とした姿勢で、眠そうな様子など一切見せずに机に向かう少女。

王立学園二学年生【リナ・フォルティティス】。

魔術師としての才を持ち、俺の幼馴染でもある少女だ。


リナのことを見ていたら、教師が大きな声で生徒達に向かって話し出した。


「なんだ、君たちは。まともに私の授業を受ける気が無いのかー?まぁ良い、まともに受けないのなら、までだ……【リナ・フォルティティス】────人間達と魔王侵攻の章、何故魔王は世界を侵攻する?これまで何度の侵攻があった?────答えよ」



リナはゆっくり立ち上がり、答え出した。


「はい────魔王が世界に侵攻するのは聖地ヨズマにある女神様のを奪う為です。」


「侵攻は過去?」


「三度です。第一の魔王は初代勇者であるキキリ様が、第二の魔王は二代目勇者のゼノア様が、そして第三の魔王は前代勇者のシェイラ様が打ち倒しました」


教師はその答えを聞き、ゆっくり口を開く。




「────正解だ。良く聞いていたようだな、見ているか他の生徒達よ、これこそが学生の在るべき姿だ。良く学び、良く経験を積むことこそ学生の本懐!!────だいたい君たちはなんだ?今代の勇者達がその身を粉にして魔物どもと戦っているというのに…学園を卒業したら兵士や魔術師になる者も多いだろう…危機感というモノがだなぁ……」


教師が更に言葉を紡ごうとしたその瞬間。チャイムが鳴り、授業が終了する。


「なっ…もうこんな時間か……君たち、次回の授業までに学生としての自覚を持つように!!」



ようやく長かった授業が終わり、生徒たちは荷物をまとめ始める。少年───ロアも例外ではなく荷物をまとめ素早く教室を後にする。その瞬間。


「───ロア」


凛とした、声が教室に響く。

声を発したのはリナ・フォルティティス。


「一緒に帰ろっ!」


「……うん、わかった」


幼馴染である彼女は、この頃いつもこうしてロアと一緒に帰ろうと着いてくるのだ。


「今日はねぇ────」


そうしていつものように会話をしながら帰路につく。才能ある少女は楽しそうに、無能の少年はどこか憂いを顔を浮かべて、それぞれの家へ帰って行く。



側から見れば、仲のいいカップルのように見えるその光景。

しかし、環境はそれを許さない。才の格差があり過ぎる二人は、人間の悪意を向けられる物だ。


そしてその悪意は───


「……チッ、気に入らねぇ、"無能"の分際で…


いつだって弱者に向けられる。











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