俺の彼女は性格が悪い

@sink2525

第1話 俺の彼女は性格が悪い

 バス車内での奥に座り景色を眺める。走っているバスは綺麗な景色を置いて行くようにスピードをあげている。それを目で追うと綺麗さと切なさがあった。

 一個の景色がそれはもう綺麗で美しい。そう思ってしまうほどに綺麗なのだ。



「朝から、景色に浸っているのはキモさからくるものなのかしら?」

 

 そう、朝から景色に浸っているのはキモさから…………おい。


「何故、そこできもが出てくるんだ?」

「だって、朝から景色をみる人なんていないでしょう」


 居るわ。ここに居ますよ! おーい、いますよ!


 横に座っている柊陽菜ひいらぎひなは俺の彼女である。小中同じで高校に入学してすぐに告白して付き合えたのだ。本当に告白できたとき嬉しかった。

 なんというか、桜が咲いたように満開になったのだが。

 彼女は変わった。

 と、いうよりも、俺の彼女は性格が悪いのだ。

 何をする時でも否定から入り、すぐに文句を言う。あの日の可愛かった彼女はどこに行ったのやら。


「もしかして、過去の私を想像していたのかしら?」

「お前はエスパーか?」

「ギリ正解」

 

 そう言い終えると陽菜は前を向いた。

 果たして俺と一緒に登校するのは楽しいのだろうか。本当は友達と登校したいんじゃないだろうか。

 学校に居る陽菜はちょっと違う。

 少しだけ明るくて誰にでも優しい。まぁ、俺を除いて優しいのだが。俺にも優しくはしてほしいとは思う。


 けど、なんていうか今の関係が悪いとは思ってはいない。

 彼女のちゃんとした素を知っているのは俺だけなんだと思うと変な感情ができてしまう。でも、嬉しいのは本当だ。


 誰よりも幸せにしたいと思った人と付き合えること、一緒に登校できていること、それら全部が嬉しい。



「そう言えば、今日学級委員の集まりがあるんだよね?」

 顔色を変えることなく陽菜は言う。

「そうだな。だから帰るのは遅くなるな」

「そう……」


 少し寂しそうな声色が微かに俺の耳を突いた。何か俺が悪いことをしたんじゃないかと思ってしまうほどその声は小さく優しい声だった。




 高校の近くのバス停で降りて学校まで向かって歩く。

 花びらが舞っている道は春そのものだった。鼻を突く花の匂い。まるで青春をなびくような風。

 撫でている風は俺たちの髪を揺らした。

 前髪を整えている陽菜は無表情のまま歩いている。

 小さな光景が大きな光景に感じる。


「そう言えばさ…………」

「どうかしたか? 陽菜?」

「うんん。なんでもない」

 ちょっぴりだけ口元を尖らした陽菜は頬を結んだ。



 同じクラスである俺と陽菜は別々に教室に足を運んだ。クラスの連中や友達にバレたりするとめんどくさくなると思ったからだ。そう思っていたのはちなみに俺だけだった。

 どういうことか陽菜は俺の考えが嫌だったらしい。けど、渋々陽菜は納得してくれた。

 何はともあれクラスの人たちにバレてはいけない。思春期である高校生にとって噂話や恋バナは会話の花であるからだ。




 つまらない授業を終えて迎えたお昼休み。

 陽菜と俺は別グループでお昼を食べる。


「なぁ~琴音傑~」

 

 俺――琴音傑ことねすぐるの名前を呼びながら目の前の椅子に腰を掛けた金城成瀬きんじょうなるせは悪態をついた。

 どこかイライラしてそうな様子の成瀬は口を開く。


「マジで、頼みごとがある!! 人生で二回目くらいの楽しみ事だ!!」

「なんだー? また、仕事を手伝ってほしいとか言うなよ」

「っげ! なんで、まだ何も言ってないだろ。それに、その、仕事と言うか勤務というか。ああ、もう」

 成瀬は図星だったのか、諦めた顔を浮かべた。


「今日、彼女とデート行く約束なんだよ。頼む傑!! 生徒会の仕事手伝ってくれ」

 成瀬は高校に入学してすぐに生徒会に入部するほどの素晴らしい人材である。ただ、彼女のことが何よりも大切なためこうやって俺に仕事をお願いしてくるのだ。

 ちなみに今回で三回目である。


「分かったよ。その代わり、分かるよね?」

「ああ。分かったよ。購買二回分でどうだ?」

「…………」

「三回分!!」

「…………」

「分かった!!! 四回分でどうだ?」

「分かった。それで良いだろう」

 

 決して詐欺ではないぞ? これはちゃんとした取引なのだ。


 そうこうして、俺と成瀬はその後は他愛もない話でお昼を過ごした。



 委員会の仕事と生徒会の仕事が終わり、俺は教室に戻った。

 ドアを開け直ぐ、足を止める。


「はぁ!?」

 

 驚き半分。理解できない半分。

 可愛さ半分。ときめき半分。


 学校が終わってから二時間が経過していた。18時も回っており、生徒会や委員会の人以外は帰っている時間帯だ。


 それなのに、俺の席には陽菜が寝ていた。

 顔をこちらに向けては小さな笑みを零している。寝ているのかは分からない。でも、確実に目はつぶっている。

 起こさないように、ゆっくりと歩みを得る。


 なんとか隣に立ち、もう一度確認する。

 普通の生徒なら帰っているはずだ。それに、陽菜からの連絡など何も入ってはいない。


 気配を察したのか、陽菜は体を起こし俺を見つめた。

 綺麗な瞳。そういう感想しか出てこない。


 

「あら、おはよう」

「なんで……いるんだ?」

「いちゃ、駄目なのかしら?」

「いや、だって、帰っていると思ったからさ」

「はぁ私はあなたの彼女なのよ? もしかして、一人で帰ることに浸りたかったの?」

 

 おい……エスパーか?


「ちげぇよ。てか、なんで本当に居るんだ?」


 太陽が陽菜を照らす。舞台中央に居るかのように陽菜を照らす光はより一層強くなる。眩しくて目を細める。


「だって、一緒に帰りたいから」


 ドクンドクンと心臓が早くなる。可愛さなんてどこかに行って冷静さを失っていく。


 本当に、俺の彼女は性格が悪い。

 

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