第15話 回想 / 走馬灯
左思野寺蔵。
うだつの上がらない浪人。彼の脳裏に浮かぶのは、父との熾烈な稽古の日々だった。
"記憶の中の道場"
父の声が、今も耳朶に響く。
「寺蔵、腰が引けている!」「一瞬の迷いが命取りになるぞ!」
道場の床は汗で濡れ、竹刀のぶつかる音だけが響く。幼い腕は痣だらけになり、何度泣き崩れたことだろう。父は決して手を緩めなかった。それは、左思野家を継ぐ者としての宿命であり、拙者に課せられた重い十字架だった。夕暮れ時、道場の外から聞こえる子供たちの笑い声が、ひどく遠くに感じられたのを覚えている。
"ガラス玉のような日々"
そんな拙者の唯一の救いは、幼なじみの麻実と蜂平だった。稽古を終え、へとへとの体で彼らのもとへ駆けつける。麻実の優しい笑顔、蜂平の無邪気な瞳。三人で秘密基地を作り、川で魚を追いかけ、日が暮れるまで駆け回った。
麻実が摘んでくれた野の花の鮮やかさ、蜂平と競い合った石蹴りの熱狂。それらは、父との厳しい日々の合間に散りばめられた、きらきらと輝く宝石のようだった。あの頃の拙者は、稽古の厳しさに耐えながらも、彼らとの時間があるからこそ、明日へと進むことができたのだ。
しかし、その宝石のような日々も、いつしか遠い記憶の彼方へと消え去ってしまった。拙者は今、あの頃の輝きを失い、ただうだつの上がらない浪人として、過去の残像に囚われていた。
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