第14話 剣術大会

"鴉天狗、まかり通る"


鬼の頭と袂を分かち、寺蔵は再び、傷だらけの足を街へと向けた。完全に癒えていない傷がじくじくと痛むが、立ち止まるわけにはいかない。目指すは街外れの遊郭だ。しかし、懐には銭がない。これは困った。

寺蔵は用心棒か、いっそ盗賊狩りでもして金を稼ごうと目論んだ······。そんな折、ふと目に留まったのは、河原の側の立て札だった。「剣術大会、開催!」の文字が躍る。悪くない。いや、むしろ好都合だ。これで一旗揚げるか。寺蔵の脳裏に、勝ち鬨と金がちらつく。

だが、すぐに現実が顔を出す。これまでの死合いで、寺蔵の名は良くも悪くも知れ渡っている。顔を晒せば、たちまち過去の因縁が押し寄せるだろう。それは避けたい。寺蔵は一計を案じる。


「よし」


彼は薄汚れた巾着から、一枚の鴉の面を取り出した。かつてどこぞで手に入れた、鳥の嘴を模した奇妙な代物だ。これを被れば、誰にも正体は悟られまい。

剣術大会の会場は、すでに熱気に包まれていた。野次馬の喧騒、木剣が打ち合う乾いた音。寺蔵は、鴉の面を深く被り、その中に身を投じた。名を伏せ、鴉天狗として。これは、彼にとっての新たな幕開けなのか、あるいは単なる逃避行なのか。寺蔵は、手にした木刀の柄をぎゅっと握りしめた。その乾いた手のひらに、わずかな汗がにじんだ。


古傷を

隠す木目や

月明かり

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