第13話 ラプソディ
鬼の頭の姿は、禍々しい物の怪へと変貌していく。漆黒の靄が彼の体を覆い尽くし、筋肉は肥大し、背中からは鋭利な角が突き出た。瞳は血のように赤く輝き、口からは牙が剥き出しになる。その異形の姿は、まさに悪夢そのものだった。
鬼の頭が低く唸ると、巨大な邪悪な塊から無数の触手が伸び、鴉面めがけて襲いかかった。鴉面は素早い身のこなしでそれをかわし、手にした鴉の羽を模した刃で触手を切り裂く。しかし、触手は何度切り裂かれても再生し、執拗に鴉面を追い詰める。
「……これが、お前の本性か!」
鴉面は苦悶の表情を浮かべながら叫んだ。その声には、驚愕と、そして微かな裏切りの色が滲んでいた。鬼の頭は、そんな鴉面の言葉など意にも介さず、さらに強力な妖術を放つ。地面から黒い茨が隆起し、鴉面の足元を絡め取ろうとする。鴉面は宙に舞い上がり、それをかわしたが、その動きは次第に鈍くなっていった。
「貴様もろとも、この闇に葬り去ってくれるわァ!」
鬼の頭の言葉に、鴉面は目を見開いた。その瞬間、鴉面の仲間である10人の影が、一斉に山の奥へと走り出した。彼らは、鬼の頭が鴉面をも狙っていることを悟り、戦線離脱を選んだのだ。
「裏切り者め…!」
鴉面は絶叫したが、その声は虚しく闇に吸い込まれていく。鬼の頭は、妖術を纏った毒針を無数に生み出し、鴉面へと放った。毒針はまるで意思を持っているかのように、鴉面の全身を容赦なく貫く。鴉面は膝から崩れ落ち、その口から血が泡となって溢れた。しかし、その瞳にはまだ、諦めの色が宿っていなかった。
「この程度で…俺を倒せると思うな…!」
鴉面は最後の力を振り絞り、自身の体から禍々しい「覇気」を放出した。漆黒のオーラが鴉面を包み込み、毒針によって開いた傷口から、さらに強力な闇の力が噴き出す。それは、鬼の頭の妖術と拮抗するほどの力を秘めていた。
二つの闇の力が激しく衝突し、あたりには地を這うような衝撃波が走る。木々は根元から折れ曲がり、大地は亀裂が入る。その壮絶な力のぶつかり合いの最中、鬼の頭は不敵な笑みを浮かべた。
「ふん、悪くねえ。だがな、お前の闇はまだ生温い」
鬼の頭は、右手のひらを鴉面へと向け、さらに強大な妖術を放つ。その妖術は、鴉面の放つ覇気を上回り、漆黒の毒液となって鴉面を包み込んだ。毒液は鴉面の体を瞬く間に蝕み、鴉面は断末魔の叫びと共に、その場に倒れ伏した。鴉の面が砕け散り、その素顔が闇の中に晒された。
戦いが終わり、鬼の頭は再び元の姿に戻っていた。彼は倒れた鴉面を一瞥すると、ゆっくりと瀕死の寺蔵の元へと歩み寄る。寺蔵は、妖術の瘴気によって全身が蝕まれ、意識が朦朧としていた。
「寺蔵よ…よく耐えたな」
鬼の頭はそう呟くと、両の掌を寺蔵の胸に当てた。その手から、温かい光が放たれ、寺蔵の体を優しく包み込む。瘴気に侵されていた寺蔵の体は、その光によって徐々に回復していく。寺蔵の顔色に生気が戻り、呼吸も楽になった。鬼の頭は、静かに掌を離した。
「なぜ…拙者を助けた?」
寺蔵は掠れた声で問いかけた。鬼の頭は、不敵な笑みを浮かべたまま、遠くの山々を見つめる。
「お前には、まだこの先の道がある。そして…俺の目的のためにも、お前の力が必要だからだ」
そう言い残すと、鬼の頭は漆黒の闇の中へと消えていった。残された寺蔵は、回復した体に満ちる不思議な力を感じながら、鬼の頭の言葉を反芻していた。
そろそろ、夜が明ける···
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