第12話 覚醒
"闇夜の妖術"
闇が深まり、月さえもその姿を隠した。視界を奪う漆黒の中、どこまでも底なしの闇が広がっているかのように感じられる。
「そこまでだ」
鬼の頭の低い声が、静寂を切り裂いた。組んでいた腕をゆっくりと解き放ち、寺蔵に致命的な傷を負わせた鴉面へと鋭い視線を投げかける。その顔には、不気味な笑みが浮かんでいた。両の掌を奇妙な形に合わせると、鬼の頭は呪文のような言霊を吐き出し始めた。
彩る
男の意地
散る桜道
吐き出される言霊は、人の耳には理解不能な響きを持ちながらも、どこか古の調べを帯びている。あたりに漂う空気が、徐々に重みを増していく。地面を這うかのように、黒い靄が立ち上り、鬼の頭の周囲に渦を巻き始めた。靄は次第に形を成し、禍々しい気配をあたりに充満させる。
鞘走る
抜き身の切っ先
月を斬る
鬼の頭が手のひらを天に掲げると、渦巻く靄は勢いを増し、見る見るうちに巨大な邪悪な塊へと変貌した。それはまるで、闇そのものが意思を持ったかのような存在だった。寺蔵の目に映るのは、漆黒の塊から伸びる無数の触手。それはまるで生き物のように蠢き、周囲の木々をねじ曲げ、引き裂いていく。風が唸り声を上げ、その場にいる者たちの耳朶を打つ。
呪文唱え
唇震えし
禍の夜
鬼の頭の瞳が、血のように赤く輝く。その視線が寺蔵を捉えると、邪悪な塊から放たれる瘴気が、寺蔵の体を蝕み始めた。息をするのも苦しいほどの重圧が、寺蔵の全身を襲う。これが、鬼の頭が操る妖術。抗う術もなく、寺蔵はただ、広がる闇に飲み込まれていくしかなかった。
「鬼の頭·······き貴様は一体何者なんだ···?」
鬼の頭が、にやりと嗤う。
「知りたいか? 寺蔵よ、見ていろ」
鬼の頭の姿は、禍々しい物の怪へと姿を変えていく···。
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