第6話 頭
鬼の頭は、配下の者たちが瞬く間に切り伏せられていく様を、冷徹な眼差しで見つめていた。彼の表情には、驚きよりもむしろ、奇妙な興味が浮かんでいる。
「ふむ……噂に違わぬ腕前よ。だが、この鬼の頭の牙城を崩すには、少々荷が重いのではないか···?」
鬼の頭はゆっくりと立ち上がり、寺蔵とは対照的に、何の得物も持たない。しかし、その全身から放たれる気迫は、寺蔵の殺気にも劣らぬほどだった。彼は静かに構え、寺蔵の動きを観察する。寺蔵は、残った用心棒たちを一掃すると、迷いなく鬼の頭に狙いを定めた。
長刀を振りかざし、寺蔵が踏み込む。その一撃は、大地を割るかのような鋭さだった。しかし、鬼の頭はまるで風のように身をかわし、寺蔵の背後を取る。寺蔵が体勢を立て直す間もなく、鬼の頭の拳が寺蔵の側頭部を襲った。凄まじい衝撃に、寺蔵の視界が揺らぐ。だが、彼は怯まない。体勢を崩しながらも長刀を振り回し、鬼の頭を牽制する。
鬼の頭は、寺蔵の執念に満ちた反撃に、僅かに眉をひそめた。彼は再び距離を取り、寺蔵の動きを見極める。寺蔵の攻撃は苛烈だが、どこか空虚な響きがあった。復讐の業火に身を焦がす寺蔵の心には、既に次なる標的への憎悪しか残されていない。その一点こそが、鬼の頭にとってのつけ入る隙だった。
「貴様の瞳には、憎しみしか映っておらぬ···。それでは、真の猛者にはなれぬぞ」
鬼の頭の声は、寺蔵の耳には届かない。彼は、ただひたすらに、目の前の敵を斬り伏せることだけを考えていた。再び寺蔵が斬りかかる。鬼の頭は、その攻撃を受け流しながら、寺蔵の懐に飛び込んだ。同時に、彼の掌から、目に見えないほどの速さで何かが放たれる。
寺蔵の胸元に、鈍い痛みが走った。見れば、小さな針のようなものが深く突き刺さっている。毒か、あるいは麻痺をもたらす仕込みか。寺蔵の動きが、僅かに鈍る。
「これまでだ、寺蔵。言い遺すことはあるか?」
鬼の頭の濃声が響き渡る。その言葉と同時に、寺蔵の長刀が、音を立てて床に落ちた。膝から崩れ落ちる寺蔵の目の前で、鬼の頭は冷酷な笑みを浮かべていた。
「復讐に囚われた骸め。お前のような存在は、この都の闇に蠢く、掃いて捨てるほどの塵と何ら変わらぬ······」
意識が遠のく中、寺蔵の脳裏に、麻実の花のような笑顔が蘇った。そして、その笑顔が、ゆっくりと憎悪に歪んでいく。彼の心には、更なる深い闇が口を開いていた。
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