4.噺家の話

 はい、はい。ご紹介に預かりまして、はい。


 ええ。公演の方もえらいご好評をいただきまして、はい。

 東京からはじまって、新潟、山形、秋田と回らせていただいて、ここ青森は二公演。五所川原と、この八戸ということで。はい。ほんとうにありがたい限りでございます。

 にしてもあれやね。こっちのごはんってのはどうにも、しょっぱいね。ほんとうに塩っ辛い。五所川原では津軽そばってラーメンいただきましたけど、ええ、まあ美味しいんですが、もうびっくり。漁師町っていうのは大抵そうなんでしょうがね。あたしぁ上方かみがたの人間なので、塩っ辛いのはどうにも。

 逆に皆さん、あれですよ。大阪とか京都のごはん食べてごらんなさい。なぁんも味しない。ええ、ええ。実際その通りですから。他人に美味いもん食わせちゃあ、あたしら食う分がなくなりますから。はい、はい。ありがとうございます。


 ことばもね、えらい変わってくる。同じ東北でも、五所川原とここじゃあ、だいぶんに違うんね。同じ日本海側でも、秋田と五所川原では違いますしね。秋田は角館、そこでやらせていただきまして。ええ。

 皆さん、あれですか。べたべたするって、何って言います?ねっぱる?すごいねえ。まったくわからへん。ええ、ええ。あめる?雨降ってるのにべたべたするんか?ええ、ええ。そうですね。


 それでね、秋田の人たちはね、ぬかぬかじい。そう喋るんです。ええ、ええ。びっくりしちゃって。ぬかぬかじい?どこのことばやねん。ええ、ええ。


 他にもね、なんとかじいだとか、なんとかしいだとか、そういう言い方をするんですって。ふるしいとか、ばたばたじいだとか。

 それでね。教えてもらったんです。言っちゃあいけないことば。これだけは、うちでも他所よそでも使っちゃあきまへんって。また何でそんなことば教えたがるん?ええ、ええ。まあきっと、失礼に当たるんでしょうね。それならそういうの、覚えておかないとね。ええ、そうですね。

 なんていったかなあ。ちょっと覚えづらい言葉でねえ。ええと、ああっと。そう、そう。


 あぱたぐじい。そうだ、そうそう。あぱたぐじい、やん。


 変なことばよねえ。あぱたぐじい。そう思いません?どんな意味かもわかんないけど、何となくまあ、言われていい気分じゃないですよね、確かに。ええ、ええ。


 あれ、お客さん?どうしはったんです?皆さん、こわい顔して。あたしの顔に何か付いてます?後ろ?なあんもないでしょう。なにしたん、突然。え?言ったらあかんこと言った?え?あたしが?どういうことです?あ、ちょっと、お客さん?


 あたし、何か、言ったらあかんこと、言いましたかね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る