一夫多妻制の許されたこの社会で俺は銀髪少女に唯一無二の愛を貫く 最終章《一夫一婦エンドVer.》
東音
第1話 故人への想い
お盆休みの初日――。
青空の下、俺達家族は、とある御影石の墓石に向かい合っていた。
「お花、綺麗だな……」
「ええ。お父様から、香織さんはトルコキキョウがお好きだとお聞きしたもので、花屋さんに取り分け形の良いものを選んで頂きました……」
何といってもいいか分からない気持ちで、花入れに新しく挿した花について感想を言うと、喪服姿のさくらは泣き笑いのような表情でそう答えてくれた。
しかし、そんなしんみりした空気は数分と持たずに破られる事になる。
「あっ……? はんわ! あうあ〜!」
「あっ。きょーちゃん、だめ〜!」
「ああ、香二、お花はダメだぞ〜? スミレもお花触っちゃうから一歩引こうな」
「あらら、香二くん、おもちゃはこっちですよ?スミレちゃんはパパママと一緒に手を合わせようね」
抱っこ紐でさくらに抱っこされていた石藤家の長男、黒髪に青い目の
会社での不正や広範囲の不倫スキャンダルが発覚し、白鳥の名声が地に落ち、逮捕された後、程なくして奴の一夫多妻制家庭の離婚が成立したらしい。
その妻であった香織とは、その後俺は連絡を取っていなかったが、さくらは独り身になった彼女をかなり心配して、お義父さんの力を借りて就職先を紹介したり、マスコミの追っかけを抑えたり色々と力になっていたようだ。
そして、我が家の大切な長女スミレが産まれて、さくらも子育てでいっぱいいっぱいになってからも、香織からは職場で上手くやっているという内容の便りを定期的にもらい、安心していたところ……。
スミレが1歳半になろうかという秋頃、香織の突然の訃報を聞いたのだった……。
「香織さん、オーバーワーク気味の状況で感染症にかかり、肺炎を悪化させてしまってそのまま……。
私があの時、香織さんに就職先をご紹介しなければ、違う未来があったのでしょうか。
私が不幸を呼んでしまったのではないかと、悔やんでも悔やみきれません。」
「さくら……! それは違うよ!」
暗い表情で俯くさくらの肩に手を掛けて、俺は首を振った。
「お線香を上げにお家へ伺った時、香織のお父さんも言っていたじゃないか。香織はさくらに法律事務所のカウンセラーの仕事を紹介してもらえて本当に感謝していたって。
自分と同じ様に、一夫多妻制家庭の不和や離婚で傷付いた人達の心のケアをする仕事に生き甲斐を見い出し、プライベートでも、一夫多妻制家庭に悩みを抱える子供達からの手紙に返事を書くボランティア活動をして充実した日々を送っていたそうじゃないか。
さくらがした事が不幸を呼んだ訳じゃない。感染症になって、若くして命を落とす事にしまったけれど、香織が幸せじゃなかったなんて、言ってはいけないのじゃないか?」
「良二さん……! そ、そうですね。最後まで立派に生き切った香織さんに失礼な事を言ってしまいました。ずっ……」
俺の言葉に頷き、さくらは目の端をハンカチで拭い、鼻を啜った。
「香織さん、あなたは私にとって最後まで尊敬すべき理想の女性でした。
香織さんが亡くなったすぐ後にこの子(香二くん)を身籠っている事が分かって、運命めいたものを感じて名前から一字頂いたんですよ?
よかったら、この子を見守ってやって下さいね」
「香織、どうか安らかに」
「香織しゃん、ママ助けてくれて、ありがとね」
「だわっ? 」
家族全員で墓の前で語りかけ、手を合わせたのだった……。
✽
さくらにはとても言えない事だが、香織の死に俺も少なからずショックを受けた。
高校時代に俺より白鳥を選んだ元カノだが、さくらに癒され、恨みの気持ちはとうに消えていた。
協力をしてもらったとはいえ、旦那である白鳥を破滅に追い込んだ俺に対して、向こうは複雑なものを感じているだろうし、関わりたくないだろうから今までなるべく関わらないようにして来た。
けれど、彼女に対してもう少ししてあげられる事があったのではないか?
彼女の死と共に、高校時代、付き合っていた時の彼女の笑顔を思い出すと胸がジクジクと痛んだ。
「良二くん、私と一緒にある人の墓参りに付き合ってくれないか?」
そんな風に義父の財前寺龍人さんに誘われたのは、香織の墓参りに行った直後、そんな気持ちが強まっていた時だった……。
✽あとがき✽
前作最終話の4年後から始まる続編になります。
しばらく毎日投稿していけたらと思いますので、よければまた見守って下さると嬉しいです。
こちらは一夫一妻制ルート(5話完結)になりまして、この話の設定で一夫多妻制にならないのは物足りない、香織の処遇がきつ過ぎるなどご不満に思う方もいらっしゃるかと思います。
家族形態と香織の運命がかなり違う一夫多妻制ルート(本編31話おまけ話7話)も同時投稿していきますので、よければそちらも覗いてみて下さると嬉しいです。
前作に興味を持って下さった方、読み直してみたいと思って下さった方は、そちらもお願いします。
↓
「一夫多妻制の許されたこの社会で俺は銀髪少女に唯一無二の愛を貫く」
https://kakuyomu.jp/works/16817330664679430020
各作品共どうかよろしくお願いしますm(_ _)m
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