神の檻に堕ちる花

神鷹聖花

元妖艶神

楽園パラディーゾ。

それは天の秩序に従い、神々が感情を律し、完全であることを強いられた世界。


だが、そこにひとつ異質な美が咲いた。

神鷹聖花――悦楽と本能の化身。

彼女は“愛”という名の感情を歪め、神すら惑わせる甘美な微笑で知られていた。


彼女が生み出す悦びは、秩序を揺るがし、欲望を解き放つ。

それを、神々は「堕落」と呼んだ。


「神に必要なのは清廉であり、悦びに酔うことではない」


ある日、神々は裁定を下した。

「神鷹聖花は、楽園に相応しくない」と。

彼女は、神々の手によって創られた封印具――**《神の檻》**へと幽閉された。


それは感情も力も吸い上げる、思考も夢も奪われる、“死なないための牢獄”。

真白な静寂と沈黙の中で、ただ彼女は“自分”を喰らいながら朽ちていく。


しかし――神の檻は、人の欲望には耐えなかった。


ある夜。

地上の、とある人間の祈りとも欲望ともつかぬ感情が、偶然にも聖花の名を呼んだ。


「神でもいい。誰でもいい。俺を、この退屈から救ってくれ」


――ひびが入った。

神の檻は、神に従うことで成り立つ。だがその声は、神に祈るのではなく対等に求めていた。


封印が緩んだ瞬間、聖花は囁いた。


「よく、呼んでくれたわ。檻の外、甘い空気ね」


檻を破る音はなかった。

彼女は静かにその中を溶かし、自身の神性ごと破壊し、サキュバスとして再構築された。

理性も秩序も削ぎ落とされた、ただ美と欲の残響。


神の檻を抜けたとき、彼女はもう“神”ではなかった。

けれど――その瞳の奥には、神だった頃よりも鋭く美しい光が宿っていた。



地上。

街の隙間、夢の裂け目、孤独の吐息に混ざって、彼女は現れる。


「私はもう祈られない。なら、求められる方が性に合うのよ」


欲望に溺れた者を誘い、手放すか、堕とすかは気分次第。

それが“堕ちた神”の、自由という名の復讐だった。

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