聖と呼ばれた男 ー弓と石の戦いー

大空 界斗

序章 産声

 男は、淡い光を感じていた。ふぅ、という吐息の音と共に、その腹へ宿ってゆく。体を丸めても心地よい水の布団に包まれて、男は浮かんでいた。

 ある晴れた日、小川を流れる水は輝かしく、茂る木々は風に揺れ、花々はその蕾をいっせいに開かせた。肌寒い頃というのに、館は妙に暖かく、普段より早く色に満ち溢れた。

 厩を出たある姫が、大きく膨れた腹を抱えながら、その柱に軽くつまずいたその時、顔を歪めて館へ戻っていく。その部屋から男が出てきたと思えば、何人もの女人を連れて慌ただしく戻っていき、その様子を嘴の黄色い小鳥たちが見守っていた。

 それからあたりの風が止む。そしてその時、丁度日が南の最も高く上った頃。


――男は産声を上げたのである。


 場所は大和は北の大地。館を、上宮カミツミヤと申す。

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