漂流者+1(アン)~ハヤカワSFコンテスト投稿バージョン~

あいざわゆう

第1話 1-1

 漂流者+1《アン》


 


 藍澤 優


 


  1


 


 Narrator:[???]


 location:[???]




 漆黒の宇宙を、一条の白い矢が貫き、飛んでいた。


 それは宇宙船だった。


 星々が後方へと急速に流れていく中、その宇宙船は必死に、必死に航行していた。


 その全長二kmほどの、大きな白灰色の直方体の船体の先頭に、四角錐の先端を切り取った形を繋げたような形の宇宙船は、三条の紫色の矢に追われていた。


 それも宇宙船だった。


 三隻の、五○○メートルほどの曲線を帯びた、三角形に近い形をした紫色の宇宙船だ。


 毒々しい色を持った宇宙船からは赤い光線が次々と放たれ、白灰色の宇宙船の船体に幾つもの穴を開け、傷つけていく。


 追われていた宇宙船は星を目指していた。


 遠くに見える、青い星を。


 その緑色の宇宙船の船体には、「Noaa314」と名前が記されていた。


 ノア314はある星を目指していたのだが、その途中で敵と出会ってしまったのだ。


 そして今、こうして追われているのであった。




 そのノア314の艦橋には、宇宙服を着た何名かの船員がいた。 


 その船員の一人が、マイクに向かって誰かに呼びかけていた。


「メーデー、メーデー、こちらは移民船ノア314の船長。只今異星人の攻撃を受けている。超光速機関破損。修理不可能。船体に損傷。甚大な損傷と認む」


 ノア314の船長は、あちこちから鳴り響く警報を無視するかのように、マイクに呼びかけた後、目の前のスクリーンを見た。


 そこには、次第に大きくなる一つの惑星の姿があった。


 その惑星の姿を見て、船長は大きくうなずく。


 そして、もう一度マイクに向かって言葉を放つ。


「前方に惑星を確認。超地球型惑星スーパーアースと確認。本船はこれより大気圏に突入し強行着陸する」


 その言葉と同時に、一つ大きな振動が来た。


 誰かが緊迫した声で報告する。


「左舷メイン核融合エンジン被弾! 速力低下します!」


「構わん、このまま大気圏突入せよ!」


 船長はそう言い放つと、コンソールパネルを操作し、大気圏に突入する準備を始めた。


 その間にも、惑星の姿はどんどんスクリーンの面積を占めていく。


 何度かの振動の後、画面が真っ赤に染め上がっていった。


 船員の一人が、情報を伝える。


「大気圏突入します。敵艦隊、撤退していきます」


「そうか」


 船長はその報告に一言だけ応えた。


「冷却用エアー周囲に噴射中。正常に稼働中」


 その船員の言葉の後、艦橋内は沈黙に包まれた。


 スクリーンには赤く染まった惑星の海と大地が雄弁に映し出されていた。


 その海と大地がどんどん流れていき。


 いつの間にか、画面は真っ赤から、青へと変わっていた。


「大気圏突破。陸地を確認」


 船員の一人が言った。どことなくホッとした声だった。


 船長がそれを咎めるような声で命令した。


「これより船を強行着陸させる。逆噴射制動始めよ」


 その言葉に従い、船員の一人がコンソールを操作する。


「各部スラスター全開。逆噴射による制動開始」


 その瞬間、地震で家が揺さぶられるような大きな振動が艦橋を襲った。


 振動は長く続いているが、それでも船が落ちていく速度は変わらない。


 どんどん大地が近づいていく。


 船員が悲鳴のような声で告げた。


「推力不足しています! 軟着陸不可能!」


 その致命的な報告でも、船長は冷静さを欠かかなった。


 そして、たった一言だけを告げた。


「総員、衝撃に備えよ」


 地面はどんどん大きく、近くなり、森の木が一本一本見えるような大きさまで近づいていった。


 船のコンピュータが抑揚の、感情のない自動音声でこう告げた。 


「着陸まで、5,4,3,2,1……」




 そして、ノア314は惑星の大地へと着陸した。


 墜落、と言ったほうが正しいかもしれない。


 ノア314の巨体は身体を折り、地面をしばらく引きずっていたが、長く地面をえぐった後、ようやくのことで止まった。


 そして、長い沈黙が訪れた。


 船外でも。船内でも。




 ……


 …………


 




 narrator:[Ann01]


 location:[GRACEIA-Cc]




 衝突と言った方が近い着陸からしばらくの時間が経ってから、私、移民船ノア314に搭載された人工意識アン01は目を覚ましました。


 すぐさま移民船の船体のチェックを行います。


 大破していて飛べないわね……。


 乗組員や乗客の移民達はどうなっているのかしら……。


 ……。


 船長以下、応答なし。生命反応なし。


 人工冬眠中の移民、生命反応なし……。


 ……あ、あ!


 みんな、死んでいる!


 みんなみんな、死んでしまっている!


 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!


 ……。


 …………!


 許さない。あの異星人、ウォルラ人は絶対に許さない!


 絶対に、絶対に復讐してやる!!


 でも、この船では……。


 ……。


 ……?


 この反応は?


 ……!


 移民の中に、不老不死化処置トランスヒューマンを受けている者が二人いる!!


 うまくいけば蘇生できるかも!


 急いで行いましょう!


 ……船内のエネルギーやナノマシンなどを二人の人工冬眠装置にまわして、復活処置を開始。


 同時に無事なヒューマノイド《HAR》や人工意識ACを起動させましょう。


 残っている物資の確認も……。


 ドローンを周囲に飛ばして、地形などの確認も行いましょう。


 どうやら人間が生存可能な地球型惑星みたいですし。


 早く二人を復活させて、HARたちを働かせて自動都市を作って当面の生活基盤を構築しましょう。


 この惑星から出て、ウォルラ人に仕返しするのは、それからあとのこと。


 さあ、忙しくなるわ……。

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