お題ロボ オーダィン
天酒之瓢
古神強襲
人々は声もなく天を仰いだ。
彼らの頭上をまたいでゆく巨大な『足』。
見間違いではない。
血色の悪い肌に鎧のようなものを纏っている、それは確かに生物の『足』である。
さらにその上には胴体があり、巨大な手斧を提げた二本の腕がつながっている。
ご丁寧にも最上部には兜をかぶった頭までもがあって、露出した口元から黄ばんだ乱杭歯がのぞいていた。
十階建てのビルと肩を並べ、横を通り過ぎる。
まるで人のような姿かたちをしていながらそれはあまりにも巨大であった。
『巨人』、そうとしか表現しようがない存在。
それの出現はあまりに唐突だった。
前触れもなく空が歪み、開いた穴から『巨人』はずるりと落ちてきた。
買い物帰りの主婦が重い荷物を抱えなおし。
通学中かサボりの学生がストラップだらけのスマホを振り回し。
外回りの会社員が速足ですれ違う。
そんないつも通りの日常を、『巨人』の両足は踏みつぶしていった。
大気を軋ませ、巨大な足が大地に降り立つ。
瞬間、腹に響く音と共に激震が走り。
わずかに遅れて地震速報のアラームが一斉に悲鳴を上げた。
もうもうと土煙が吹き上がり人々を呑み込んでゆく。
『巨人』はただ現れただけで街を地獄へと変えていた。
そうして何が起こったのか把握しきれず混乱する人々を一顧だにせず、『巨人』はただ悠然と歩き出した。
家屋を蹴り壊し、車も人もまとめて踏みつぶし。
『巨人』は地獄絵図を広げながら進む。
悲鳴と爆音を引き連れていた『巨人』の歩みが、にわかに止まった。
それは顔を突き出し、乱杭歯をむき出しにしながらゆっくりと左右に振る。
顔の半分以上は兜に覆われており様子がうかがえない。
しかし何かを嗅ぎつけたのだろうことがその仕草からは理解できた。
新たな異変が起こる。
『巨人』が睨んだ先、そこには街中にポツンと残された小高い丘陵があった。
中には古墳があって史跡として親しまれていた場所である。
それが、内部から爆発するように土砂を噴き上げた。
木々と土砂を吹き飛ばしながら突き出る、巨大な腕。
中から這い出てきたのは、またも『巨人』だった。
しかしこちらは生身らしき部分は見えず、全身くまなく鎧に覆われている。
唯一兜の目の部分だけはのぞき穴らしく開いていた。
形状からして両目があるようだが、しかし片方は覆われたままだ。
いかにも古めかしい意匠の鎧。
巨大さも相まって、まるで古代の神像が動き出したかのようである。
突然現れた『巨人』、その災厄を打ち払うために目覚めたとでもいうのか。
――オォォ……! ダァァ! インッ!!
その時、『鎧の巨人』を睨み据え『巨人』が咆えた。
明らかに威嚇的に、敵対的に。
乱杭歯を食いしばり、その手に下げた手斧を構えて走り出す。
歩きよりはるかに激しい振動が大地を揺らし、人々の足をとった。
『鎧の巨人』もまた動き出す。
拝むように両手を身体の前で合わせる、すると二の腕の鎧に隙間が開き、中から光り輝く円環が現れた。
『鎧の巨人』が腕を振る。
円環は高速で回転しながら射出され、『巨人』へと襲い掛かった。
『巨人』は手斧を振り光の環を全て叩き壊すとなおも接近を続ける。
飛び道具は無意味と悟ったのだろう、『鎧の巨人』が動きを変えた。
腕を突き出し、手を広げる。
直後、空中に『巨人』が現れた時と同様の穴が開き、中から一本の長大な槍を吐き出した。
『鎧の巨人』は自らの全高を超える、その長槍を掴み構える。
そうして踊りこんでくる『巨人』を睨み据え、長槍を突き出した。
手斧を持った『巨人』の間合いの外からの攻撃だ。
しかし『巨人』もさるもの、片方の手斧を振り下ろし槍の穂先を弾いてみせた。
槍をかわし無防備となった『鎧の巨人』めがけ、もう片方の手斧を振りかぶる。
同時、『鎧の巨人』の背中で鎧の一部がパカパカと開いていった。
中からはガラス質の球体がのぞく。
それは眩く輝き、幾筋もの光線を吐き出した。
光線は空中でジグザクと折れ曲がると四方から『巨人』へと突き刺さる。
激しい爆発が起こり、今しも手斧を振りかぶっていた『巨人』の体勢が大きく崩れた。
のけぞり、数歩後退する。
キン、と空気が張った。
『鎧の巨人』が放つ力の波動が高まり、その全身いたるところから光を放ちはじめ。
輝きが最高潮に達した瞬間、その片目を覆っていた鎧が開いた。
のぞいた両目が輝き、光が槍を覆ってゆく。
――グゥゥ……ングゥゥ……!
『鎧の巨人』は光に包まれた槍を引くと、素早く突き出す。
その頃には体勢を立て直していた『巨人』が、またも手斧で穂先を打った。
またも槍が逸らされる――ことはなかった。
粉々に砕けたのは、槍を打った手斧の側であった。
槍はそのまま『巨人』の胸に突き刺さり、貫く。
――オォォ……。
『巨人』が震え、自らの胸を貫く槍を掴むと何かを告げんと口を開き。
しかし叶うことなくごぼっと血塊を吐き出す。
同時、槍から炎が噴き出した。
炎があっというまに『巨人』の全身を包みこむ。
やがて炎が収まった時、『巨人』は完全に灰と化していた。
天を衝くような灰の塊が崩れ去る。
街を破壊していた『巨人』の威容は既になく、ただもうもうと吹き上がる灰煙だけが残されていた。
『巨人』の脅威が過ぎ去り、人々は安堵したか。
否。そこには『鎧の巨人』が勝ち残っている。
誰もが息を吞んで見つめる中、『鎧の巨人』は槍を引くと構えを解き、そのまま動きを止めた。
空に穴が開き槍が吸い込まれるように消えてゆく。
沈黙したまま立ち尽くす『鎧の巨人』を背景に、街中には思い出したかのように緊急車両のサイレンが響くのだった。
あとがき
★企画経緯
【緩募・企画】
#お題ロボ オーダィン出撃!さて、一体どんなロボ?
巨大人型兵器オーダィンの設定を考え本ポストにリプください。大きさ形状出自機能構造何でも自由。
設定の文字数は1ポスト(140文字)までで。
採用した設定で私が短編を書きます。
趣味企画につき色々大らかにお願いします。
★採用
古き神々と呼ばれる先史文明が遺した巨大神像型ロボ。身長40m。
武装は身の丈超える長大な槍。
他に光線砲や射出型戦輪などの内臓武装を複数備える。
通常は片目が覆われているが、最高出力を出す時は解放され、秘められた力が発揮される。
巨人型の敵に対抗するために開発された。
オメガスプリーム(ダイアクロン隊員)さん、ありがとうございます!
★雑感
お題のチョイスとしては、大きさがあって武装があってという、いかにもロボの設定!という王道感を重視した。
ぱっと物語が浮かぶ設定も数多くあったが、今回は最初ということであえてプレーンなものを。
できれば外見設定がもっとネチネチと欲しかったが、それは設定側の文字数制限(1ポスト140字)の都合上難しかったかも。
そもそもの話、まず複数のお題から選ぶのが大変だった。
企画の意図としては「設定、描いて見せましょう」なのでお題の選択のほうにあれこれが発生するのはやや本末転倒さもあり。
先に出題者を決めてから投げられたお題をこなす、のほうがやり方としてスマートかもと思った。
公開が遅くなったのは申し訳ない。
それもこれも夜が襲ってきたのがいかんけぇ。
お題ロボ オーダィン 天酒之瓢 @Hisago_Amazake_no
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