南雲さん誕プレ

とーふ

2025南雲皋爆誕三題噺 『不意打ち』『あめ』『笑う』

 ザァザァと降り始めた強い雨の中、二人の男女が雨宮神社の古びた小さなお社の下で休んでいた。

 雨で濡れたのだろう、神社の近くにある中学校の制服は水に濡れている。

 肌に張り付いた制服は不快感を二人に与えているだろうに、二人は互いが異性である為か、脱ぐことなくそのままの姿で居た。


 そして、互いに視線を外へ向けながらどことなく、浮ついた気持ちで座っている。

 いや、確かに視線は外を向いているが、たまに相手の方へバレない様に視線を送っていた。

 一瞬だけ見て、また外す。

 先ほどよりも少しだけ長く見て、外す。


 胸に秘めた思いを、口に出せぬ想いをキュッと抱えながら、二人はただ想いが強く込められた瞳を前よりも少しだけ長くと送り続けた。

 そんな事を繰り返していたからか、二人の視線が偶然合ってしまった。

 瞬間、二人は焦った様にまた視線を外したが、互いに視線を向けている事がバレてしまった。

 秘めた思いが……相手に伝わってしまったかもしれない。


 そんな緊張感で強くなってゆく鼓動を抱えながら……最初に口を開いたのは少女の方だった。


「ね、ねぇ。天野君ってさ。その、気になってる子……居る?」

「な、なんだよ。急に」

「いや、そのさ。気になっちゃって」

「居ないよ」

「っ!」

「いや、居なかったっていう方が正しいかな」

「え、と、どういう事……?」


 不意に、天野少年の目線が真っすぐに少女を貫いた。

 その視線の強さに、少女は視線を彷徨わせながら頬を赤くして、モジモジと指を絡めながら身を小さくする。

 濡れている体を隠す様に。


「今、甘崎さんの事が気になってる」

「っ! ほ、ほんと……?」

「うん」


 天野少年の真っすぐな瞳に甘崎少女は頬を赤らめながら視線を落とした。

 やや長めの前髪で目元が隠れ、小さな笑みを作っている表情だけが僅かにうかがえる状態となる。



きょうは、なぐなぐスライムママの、たんじょうび!

なぐなぐスライムちゃんは、ママにプレゼントをあげようと、あめのなかを、よいしょー よいしょー とすすんでいました!



「ねぇ、知ってる?」

「なにを?」

「雨宮神社にはね。こわーい噂話があるんだよ」

「……」

「昔、大好きだった人に告白して、でもフラれちゃって、悲しくなって神社で首を吊ってしまった子が居るの」

「そう、なんだ……」

「ほら、あそこ。ちょうど見えるでしょ? あの木。あの木の枝にねロープを掛けて、それで首を……ふふ、怖いよね」


 甘崎少女は天野少年に顔を見せないまま、淡々と語る。

 その雰囲気が、空気が、どことなく冷たくなっている事に天野少年は気づいていた。

 しかし、逃げ出す事が出来なかった。


「その子はね。死んでから、ずっと後悔してたの。一人で死ぬんじゃなかった。一人は寂しいよぉ。悲しいよぉって」


 甘崎少女の笑みが深くなってゆく。

 先ほどまでの可愛らしい少女の顔はなく、口元は大きく歪み、目元の隠れた顔の下で鋭利な弧を作った。


「だから、大好きな人とずっと一緒に居る為に、私を好きになってくれた男の子を殺して、一緒にいる事にしたんだよぉー!」


 甘崎少女はバッと顔を上げて、その狂気に満ちた顔を晒した。

 目からは血の涙が流れ、見開かれた目は充血し、獲物を探してぎらついている。

 首にはいつの間にかロープが巻き付けられていて、少女の首を痛々しく締め付けていた。


 そして、少女はカッと見開かれた目で天野少年を見……ようとしたが、社のやや朽ちた屋根の下には誰も居なかった。

 先ほどまで居た天野少年の姿はなく、ここには甘崎少女一人きり……。


「き、消えた!? おのれ、奴め! 何処へ消えた!?」

「俺はここだァー!!」


 甘崎少女は社の下から外へと飛び出し、屋根の上に立つ天野少年を見据えた。

 黒い装束を身に着けて、口元を隠した時代劇に出てくる様な忍者の姿をして、腕を組む天野少年を!



そして、なぐなぐスライムちゃんは、おおきなはっぱをみつけました!

はっぱのうえでするおひるねは、すっごくきもちがいい

だから、きっとママも よろこんでくれる!

そうかんがえて、なぐなぐスライムちゃんは いっしょうけんめいはっぱをはこびます

よいしょー よいしょー



「そこだッ!?」


 天野少年の姿に気を取られた隙に、甘崎少女は手裏剣による攻撃を受けてしまった。

 手裏剣の鋭い刃は容易く少女の頬を切り裂いて、赤い血を流させたが次の瞬間には傷が癒えてしまう。


「やはり、この世の物では無かったか!」

「私を騙したのね!? 酷い!」

「ならば! 霊刀! コガラシ!」


 天野少年は腰から一本の刀を抜くと、それを持ち、甘崎少女に向かって飛び込みながら振り下ろした!

 甘崎少女は避けられないと悟り、天野少年に向かって呪いを込めた手を振り上げる。


 そして、二人の影は一つに重なり、全ての決着がついた!


 全てが終わり、天野少年は再び学生服に戻った。

 既に雨が上がっており、空には虹が出ていたが、天野少年の顔は浮かない。

 どこからともなく取り出した花を木の下に供えると、そのまま神社を後にするのだった。


 彼の戦いはまだ……終わらない。



なぐなぐスライムママは、なぐなぐスライムちゃんのぼうけんをきいて びっくりしました

そして なぐなぐスライムちゃんの ぼうけんをききながら、なぐなぐスライムちゃんがプレゼントしてくれた はっぱのべっどでなぐなぐスライムちゃんと おやすみしました

きょうも いいゆめがみれるよね!


おわり!



物語のどこかに『なぐなぐスライムママ』が隠れているよ!

探してみてね!

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南雲さん誕プレ とーふ @to-hu_kanata

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