才能で無双しろ

@ibu5243

第1話

『魔王軍襲来!魔王軍襲来!冒険者各位は北門に集まってください!数は二十程、幹部も一体いる模様です!』


ベッドで眠っていた俺は、突然けたたましくなっている警報に起こされた。窓から外を覗くと、そこかしこの家から灯りがつき始めた。

こういった場合、冒険者以外は家から出ないようにと冒険者ギルドから指示をされている。

しかし、今回は幹部も来ているという。ここは、ある程度の実力を持つ冒険者が数多くいるが、そんな冒険者達が束になっても勝てる可能性がほぼゼロに等しいのが魔王軍幹部だ。不安で、逃げるべきか家から出ないべきか、どうしたら良いのか分からないのだろう。


俺は机の引き出しに仕舞われていた冒険者カードを取り出す。冒険者として、やるべきことが俺にはある。

サッと準備を終えると、泊まっていた宿から出た。


向かった先には、北門に向かったのだろう門兵がおらず、手続きをすることなく門からでれた。ここから北門まではかなりの距離があるが、それでもここまで爆発音が聞こえてくる。

街のために戦っている冒険者達がいるのだろう。幹部を相手に戦いを挑むだなんて、馬鹿な奴らだ。

だが、ご飯を奢ってくれたマケラ。一度だけパーティーに入れてくれたアードゥー達、屈んだ時にパンツをチラ見せしていたランドウ。いい奴らだったぜ。あばよ、俺は俺の冒険があるのだ。新たな拠点での冒険に思いを馳せ、一歩を踏み出す。


「ちょっと、アンタこんなところで何やってるのよ。その風呂敷の中身は何かしら?」


「す、すみません!今すぐ北門に行きます!ほんとすみません!」


後ろから声をかけられ、咄嗟に謝ってしまう。

門兵が居たのだろうと思ったが、声をかけてきた人物を見て後悔した。俺と同じく風呂敷を背負っている冒険者。


「なんだ、謝って損した。まぁアイリが魔王軍との戦いに行くわけないよな」


「ちょっと、それはアンタもでしょ」


「いや、俺はそんなんじゃないから。なんか旅に出たい気分なんだよ。ほら、俺のいいところは行動力だろ?すぐに旅に出ることにしたんだよ」


「知らないわよアンタのことなんか。でもまぁいいわ。私は隣街に向かうから、着いてこないでよね」


行き先まで俺と同じか。まぁ隣街以外だとかなり距離があるのだし、そこしかないか。


「あら、あらあら。まさか私の行動が読まれているとはね」


なんとかしてアイリより先に隣街まで向かおうと頭を悩ませていた俺と、馬鹿面のアイリに声をかけてきたのは、フード付きのローブで全身を隠した女だった。突然のことで、なんと言われたのか聞き取れなかった。

アイリの方を見ると、先ほど以上に馬鹿面をしていた。


「えっと、あんたも隣街を目指してるのか?まぁ俺は一緒に行ってもいいけど。別に一人じゃ心細いとかじゃないけどな」


歩み寄ろうとした俺の腕をアイリが全力で引っ張ってくる。


「ねぇ、馬鹿なの?アンタ馬鹿なの?あの人の禍々しい魔力を感じれないの?そんなに可哀想な子なの?」


突然失礼なやつだなコイツ。

魔力量がすごいのは俺だって分かっている。

だが、禍々しい魔力?そんなもん女からは感じられない。しかし、アイリはビクついて俺を盾にしている。


「なぁに、あなた達。私の作戦を見抜いたんじゃなくてただの腰抜け?まぁいいわ、騒がれてもめんどくさいし。いま、楽にしてあげる」


「ヤバいんだけど!あいつ、魔族なんですけど!」


「ほへ?」


魔族が右手を突き出すと、次の瞬間にはその手の平から魔法が放たれた。ものすごいスピードでこちらに向かってくるその魔法は、しかしアイリが咄嗟に俺の身体ごとそらせ、無事に回避することができた。


「ねぇどうする、どうすんの!魔族相手に戦えないわよ!死ぬのがオチよ!」


「と、取り敢えず街に戻ろう。騒ぎを聞きつけて助けが来るかもしれない。それまでに街には多大なる被害が出るだろうが、仕方ない。未来の英雄である俺が生き延びるためだ」


「そ、そうね!未来の大魔法使いである私が生き延びるため!仕方のない犠牲ね!」


立ち上がり、街に戻ろうとした俺たち。しかし、先ほど魔族が放った魔法が門に直撃したようだ。その際の瓦礫で門が封鎖され、中に入ることも、出ることもできなくなっている。


「……アイリ、十万で仕事を依頼したい。支払いは依頼達成の後でいいな?」


「馬鹿言ってんじゃないわよ。な、なら私もアンタに依頼するわ。報酬は二十万。もちろん依頼達成の後よ」


「おい、パクってんじゃねーぞ!いいからお前が戦うんだよ!ほら、さっさと行けゴミカス女が!」


「こういう時こそ男の仕事なのよ!さ、ほら、早く行って!女の私を守ってよ!」


「さっきからごちゃごちゃと、仲間割れかしら?安心なさい。二人同時にいかせてあげるから」


魔族がまた魔法を放つ。俺は咄嗟にアイリを押し倒す形でその魔法を回避した。


「しょうがない。逃げ道もないし、助けもすぐには来ないだろう。やれるだけやるぞ」


「ちょっと、正気?私たち二人で幹部相手なんて、一分ももたないわよ?」


アイリの言う通り、俺たち雑魚冒険者では幹部を相手にまともに戦えるほどの実力はない。今でこそ魔法が避けられているが、それは相手が魔力を温存するために低レベルの魔法を使っているからだ。それでも門を破壊できるほどの威力。うん、無理。


「お前さっき大魔法使いとか言ってたな。何が使えるんだ?」


「中、上級魔法はある程度使えるわ。バフ、デバフはかけられないからね。あと、回復魔法も無理よ」


平然と言うアイリ。しかし、魔法使いを志していたミヤビには、アイリの実力の高さがよくわかる。


「おいおい、お前ほんとになんで逃げようとしてたんだよ。上級魔法使えるとか、この世界でもトップクラスの魔法使いじゃないか」


この世界で、ミヤビが知っている中で上級魔法が使える魔法使いは七人ほどだ。それぞれが長年魔法についての研究を続け、やっとの思いで編み出し、習得したと聞く。

しかし、その時にはすでに戦えるほどの年齢ではなく、今は弟子を雇ってその魔法を教えているのだそうだ。


それをアイリはすでに使えるという。年齢詐称か?コイツは俺と同じ10代と聞いていたが。


「それで、そっちは……」


アイリが何かを聞こうとした時、こちらに向かってくる魔法に気づいて咄嗟に手の平を向けた。その手の平からは、近くにいた俺が吹き飛ばされそうなほどの風が吹き荒れた。


「はぁぁぁぁ!!」


手の平から吹き荒れたその風は、魔法にまっすぐ向かっていく。

風が迫ってくる魔法を包み込むと、急カーブして魔族に向かっていった。


「なっ、この私の魔法を……」


魔族は咄嗟に自身の魔法を解除するが、荒れ吹く風に包まれ、ローブがボロボロになってしまっていた。

ローブの下には黒のドレスを着ているようで、大胆に谷間を覗かせたその姿に、何故か俺は目を離さないでいた。やつめ、きっと何かしらの魔法を俺に使ってきているようだ。なんてやつだ!


「アンタ少しは集中しなさい!ほら、今のうちに距離を取るのよ!逃げるの!」


「逃げるったって、逃げようがないだろ。それよりなんだよお前、あんな魔法使えるのかよ」


「馬鹿ね、作戦を立てるためよ。アイツに聞かれないように、ほら、こっち!」


アイリの後について魔族から距離を取る。魔族は、アイリの魔法が直撃したはずだが、ローブがボロボロになっているだけで、それだけだ。

今のアイリが使った魔法はウェーブローブと呼ばれる中級風魔法で、主に魔法を包み込み、反らせる魔法だ。

それを魔族に向かってコントロールできるほどの技量。アイリの名をギルドではあまり聞かなかったが、相当の使い手であることはよくわかった。


「それで、作戦ってなんかあるのか?お前が使える上級魔法をぶち込んでみるしかないだろ」


「そう、それをどうやってアイツに当てるのかってのが問題よ。相手は魔王軍幹部、馬鹿正直に魔法を放って当たるなら苦労しないわ」


魔族は逃げる俺たちの後をジリジリと追ってくるだけで、攻撃を仕掛けてこない。

アイリの魔法使いとしての実力を認め、慎重になっているのだろう。


「私は上級魔法を使うのにタメが必要。それと、さっき言った通り魔族に当てるためにその隙を作らなければいけないわ」


前を走っていたアイリは足を止め、俺に向き直ると真剣な眼差しで俺の目をまっすぐと見つめた。


「そこで重要になるのがアンタよ。アンタがこの作戦のカギになるわ!ねぇ、アンタは何ができるの?職業はなに?」


「…………アーチャー…………」


場が凍りついた。魔族には聞こえないように小声で言ったのだが、なぜか魔族さえも動きを止めている。


「あ、アーチャー?あ、ああ、あれね。魔力を乗せて強力な魔法矢を放つとかよね!冒険者にすらならないなんて、論外だものね!」


「……魔力の……コントロールセンスがなくて……だから……ただの矢です」


「……あちゃー( ・∇・)」



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