平日、深夜、24時間営業のコインランドリーにて

腸管脱出

乾燥機、まわるまわる

「あ、雪さん」


「お、悠斗くん」


「どうしたんですかこんな時間に」


「どうしたもこうしたもないよ。さっき酒飲んでたら咽せちゃってさ」


「はあ」


「明日着る予定の服が台無し!洗濯するにしてもこの時間じゃん?」


「近所迷惑ですね」


「そーそー、こないだ隣のハゲがまた難癖つけてきやがって」


「まあやりにくいですよね」


「だからこんなとこまでえっちらおっちら歩いてきたってワケ!」


「大の大人がこんな時間にそんな格好で……」


「悪いかい?キミみたいなスケベ少年にはご褒美だろ?」


「僕、もう20なんで少年じゃないですよ」


「スケベは否定しないんだ」


「当たり前でしょ」


「ふーん」


「っていうかここ、禁煙ですよ」


「あれ、そうだったか。失敬失敬」


「そのおっさんみたいな喋り方辞めてくださいよ。まだ29でしょ?」


「もう29だよ。もうね」


「なんか余裕そうですね」


「焦りもなくなってくるよこんなんじゃ。あー、明日もセクハラ受けながら働かなきゃ行けないのかー!」


「結婚とかよりもそっちなんですね」


「まあ?顔は悪くないし?」


「自分で言うなよ……」


「それにいざとなったら悠斗くんとくんずほぐれつ、既成事実作っちゃえばいいでしょ」


「抵抗しますよ僕は」


「ってかキミこそこんな時間に何してんのさ」


「僕も大学に来てく服無くしちゃって」


「どしてぇ」


「見誤りました。洗濯をするタイミングを」


「あー、キミもよーやるねぇ〜」


「雪さんにだけは言われたくなかった……!」


「失礼じゃないか?」


「まあ僕は乾燥機に突っ込むだけなんで……あれ、小銭忘れてきた」


「しかたない。社会人歴では先輩の私が払ってあげよう」


「あ、いいです。雪さんみたいな大人に借り作るとろくなことにならないって知ってるんで」


「はー!?結構いいことあるかもしれないぞ!」


「少なくとも僕にはないでしょ」


「あるよ!ってか、200円くらいで借りだなんてそんなみみっちいこと覚えてらんないぞ!?」


「じゃあお言葉に甘えて」


「なんなんだこの子……はい」


「アザス!!」


「元気がいいなあ。腹が立つなあ」


「ふう。そういえば、また上司にセクハラされてるんですか?」


「まーねー。慣れっこだから別にいいんだけどさ」


「何言われてるかは聞いてもいいです?」


「彼氏作らないのかーとか、今日もいい匂いするねーとか?」


「彼氏に関してはまああれですけど、なんで匂い褒められて嫌なんですか?」


「んー、友達じゃないからかなぁ」


「友達だったらいいんですか?」


「そうだね〜。友達だったら冗談で言い返せるけど、年上のおっさんだったら冗談だろうが本気だろうが何言っても責められる気がするじゃん?」


「んー、僕にはあまり」


「ま大学生だもんね。いつかわかるよ」


「でも、立場を利用した発言が嫌いっていうのはわかりますよ。僕も一度部活の先輩から雑用を任されたときすごくキモイなって思いましたもん」


「ああいうのってさあ、なんで反論しちゃダメか知ってる?」


「え、知ってるんですか?」


「もちろん。キミより大人だからね」


「教えてください」


「ああいうのはね、自分が知らないところで共有されてるんだよ。先輩にしても上司にしても、上が持つ権力とかそういうのは未だ強い力を持ってるからね」


「つまり、僕らよりも上の人たちに共有されてしまうってことですか?」


「そういうことだよ。まあ私の持論だけど。その人が嫌われてるってこともあるし一概には言えないけどね」


「うーん、なんか卑怯ですよね」


「私たち平人間には上の世界がわからないからねえ。立場っていうのは便利な反面、使い方を誤ると全くもって厄介なものになるんだよ」


「便利なんですか?不便なように感じますけど」


「社会に出たらわかるよ。自然とね。周りからの圧もすごいんだから」


「雪さんそういう時はどうやって対応してるんですか?」


「聞こえるように舌打ちしてる」


「全然立場に怖気ついてないじゃないですか。さっきまでの話はどこに行ったんですか?」


「いやだって、腹が立つじゃない?」


「結構露骨なんですね」


「アラサーにもなると腫れ物扱いされだすんだよ。私みたいな人種は」


「真夏の深夜に薄着でタバコ吹かしながらコインランドリーいますもんね」


「文句あんのかコンニャロウ」


「ないですけど」


「でもさー、楽しいよ社会人は。自分のことにお金使えるから」


「この間お金ないって言ってませんでした?」


「酒買ってたらね……ちょっとね……」


「酒クズ……?」


「そんなに申し訳なさそうに聞いてくるならもうちょっと言葉を選べよ」


「酒……カス?」


「そんなに変わってないじゃん」


「いつもお酒飲んでるし、汗とかお酒になってるんじゃないですか?」


「私の半分は酒でできてるからね」


「怖い」


「怖くないって」


「あ、乾燥終わった」


「どれ、アルコール人間の私が手伝ってやろう」


「酸の汗出されても困るんでいいです」


「それはどこの会話から抽出したものなんだ?」



8/5、月曜日、1:16

登場人物:赤井悠斗、柊雪

以上

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平日、深夜、24時間営業のコインランドリーにて 腸管脱出 @tyoukandassyutsu

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