最推し殺し屋概念SS

@yadoribi_haduki

第1話 血染めの花嫁

 犯罪都市のとあるビルの一室、肥満体系の中年の男は生まれてきたことを後悔する羽目になった。


 始まりは、今夜あなたの運命を奪いに行きます。と書かれた一枚の犯罪予告。上質な人間の皮で作られた紙はには、くじやかけ、運に任せて殺しのターゲットを決める頭のおかしい暗殺者集団のしるしが。


 恨まれるようなことは数えきれないほどやった。

 この都市でのし上がるために何でもやった。

 違法な薬を売りさばき、無抵抗な人間を嬲り殺した。


 だからと言って、それでも。

 こんな死に方はあんまりじゃないかと。


 カシミアの絨毯のうえに倒れこむ男の上には、小柄な少女がまたがり覆いかぶさっていた。

 少女の手にはきらりと光る刃物。

 少女は、なぜか男の左薬指の肉だけを執拗にそいでいた。


 痛みと恐怖によって悲鳴を上げる男を押さえつけながら、少女は大粒の涙をぼたぼたとそのダークブラウンの大きな瞳から零れ落ちた。


 「ごめんねぇ、ごめんねぇ、痛いよね……。でもこれが終わったら私と結婚してくれるんだよね……」

 「このっ……イカれ女がっああああああ」

 「ね、ほら、これで指輪が入ったでしょう? 私にプロポーズしてね?」

 「は?」

 「見てみて、このドレス。あなたの血で真っ赤。まるであなたに染められてしまったみたい」


 そう言って男から離れた少女はくるくると回って見せる。純白のウェディングドレスのスカートがふわりと広がり、まるでそれは新しい服を恋人に見せつけるかのようであった。


 「ね? だからね、私にプロポーズして?」

 「俺は殺しのターゲットだろう?」

 「そう、あなたは花織さん。私を愛してくれる花織さん。だからあなたと結婚するの」


 そう恥ずかしそうに応える少女はまるで初恋を経験した乙女のような表情を浮かべている。


 男は心底恐怖した。

 金で殺すやつはいた。

 酒や薬でおかしくなって殺すやつはいた。

 殺しが楽しくて愉しくて仕方のないやつもいた。


 だが、殺す相手に愛を求めるやつは、初めてだった。


 「ふざけんなよクソ女が、誰がお前のような女にプロポーズするものか」


 精一杯の虚勢。数時間続いた拷問に体も、心も、何もかもボロボロであった男だが、それでも、無理やりに指輪をはめられた左手で中指を立てて見せる。


 すとん、と少女の顔から一切の表情が抜け落ちた。先ほどまで浮かべた照れた笑顔はどこへ行ったのか、もはや死人のようでもあったのち、狂乱。


 「あああああああ、どうして、どうして、どうして!! 花織さんだと思ったのに! 私を愛してくれると思ったのに!! ああ、ドレスが! 私のドレスが!! 花織さんではないものに汚されている!!!!」


 少女は髪を振り回しながら絶叫した。そして、男の手に光る婚約指輪をみてさらに声を荒げた。


 「私の! 私が花織さんにもらった婚約指輪! お前盗んだな! 返せ!!」


 銀の光がきらめき、ぼとり、と男の薬指が落ちた。


 「ぐっあああああ!!」

 「ごめんなさい! ごめんなさい花織さん。あなたからもらった大切な指輪なのに!」


 少女は落ちた指から指輪を外し何度も拭きあげて男の血を取り除く。

 男は机の上に置いてある自分の愛銃に目をやった。右手はまだ無事だ。もしかしたら。あの銃をとれば。少女を殺して自分は助かるかもしれない。


 「ああ…そうだ。殺さなきゃ」


 わずかな希望から絶望へと引きずりおろす悪魔の声。いつの間にか取り出したのか、彼女の手には消音器のついた拳銃が握られていた。


 「あなたは花織さんじゃない、花織さんじゃない。なら、あなたは死ぬべきなの」


 どむっというくぐもった銃声によって、男の運命は奪われた。



キャラ設定

一途 殺し屋 


 「あなたは花織さん、だから私と結ばれるの」


純白のウェディングドレスをまとった殺し屋。必ずターゲットの薬指に婚約指輪をはめ、その指輪で自身にプロポーズさせてから心臓を銃で射止めて殺す。 薬指にはめる指輪のサイズが合わなかった場合、無理やり指のほうのサイズを指輪に合わせる。


 「花織さんじゃないの? じゃあ、殺さなきゃ」


なお婚約指輪は誰かが落とした祭り屋台で売られている安物で、それを拾った一途が花織さんにもらったものだ、と思い込んでいる。指輪は幾人もの血によって変色してしまっている。


花織 刑事 まだ未登場


 「たとえこの町が許したとしても、僕と法だけは君を許さない」


 新人刑事。偶然一途が落とした指輪を拾い、それをちょっとカッコつけて薬指にはめてあげてしまったがために一途に執着するようになる。こわいね。


 それからというもの皆殺しが基本の殺害現場にて唯一一途に殺されないため捜査班に入れられる。そのうち潜入調査として潜り込んだ時に首輪とリードを一途につけられる予定。


 実はちゃんと別に本名があるけれど、一途に花織という名前や理想の恋人というガワを無理やりかぶせられている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最推し殺し屋概念SS @yadoribi_haduki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る