第8話 被害者

なるほどね。

とりあえず、被害者の家の近くまで情報収集のため行ってみるか…。


俺は、被害者の家の近くまで電車で移動し近くの交番を尋ねた。


「すみません、ここら辺で物騒な事件があったって本当ですか?」


制服を着て交番の前に立っている、警察官に聞いてみる。


「そうなんだよ、ここの近くの家の子が殺害されてね、昨日は一晩中大変だったよ。なんでも、被害者は容疑者と同級生だったらしくてねその中学校は今休校中だよ」

「そうなんですね、ありがとうございます」


被害者は、同級生か…。

これは、嫌な予感がするな。


そして、俺は被害者の家の近くを軽く散歩してみたが手がかりという手がかりは見つけることができなかった。


辺りも暗くなってきた頃、ふとスマホを見ると犯人が新しい動画をアップロードしていた。


SNSは騒然としていた。


「なんか、またヤバい動画があげられているぞ」

「犯行予告かよ。怖いな」


スマートフォンを見た俺の手が、ほんの一瞬だけ震えた。


動画のサムネイルには、黒いパーカー姿の少年が椅子に腰をかけている姿。


その背景には、誰かの遺体のような影。

そして、加工音声で語られる内容はあまりにも鮮烈だった。


「俺は、ただの殺人鬼じゃない。これは俺の正義だ。俺の周りの奴らは、全員で俺を壊した。法は俺を守らなかった。だから、俺が裁く」


「国は少年法をいじろうとしてるらしいな。遅いよ。俺が必要悪である理由を、これから証明してやる。今日の夜、また誰か一人を手にかける。警察でも、ヒーローでも止められるもんなら止めてみろよ」


血の気が引くとはこのことだと思った。

(ヒーローって俺に向けて言ってるのか、これは)


また、腕時計が淡く発光し画面が浮かび上がる。


《動画投稿による犯行予告あり。犯人の発信元IPは複数に分散されており候補が複数。予想犯行場所は、泉ビル跡地。警察の反応が複数》


泉ビル跡地か…近いな。

もう、俺に止めろと言わんばかりだな…。


腕時計のダイヤルを押し込もうとした瞬間俺のスマホがなった。

ユイからの着信だった。


「はい、もしもし」

「ちょっと、タツキ!どこいるの?もう夕飯できたんだけど!」

「少し、野暮用で隣町にいるんだ。すぐ帰るから俺の分の夕食残しとけよ」

「ちょっと、タツキ!」


ピッ。

俺は、スマホを切り腕時計のダイヤルを押し込む。


闇の中、再び黒のスーツが俺を包む。

そして、俺は静かに歩き出した。


「正義を語るなんて、10年早いんだよ。クソガキが!」


警察が奴を見つける前にさっさと仕事を片付けるか…。

泉ビル跡地か、急ごう。


俺は、ビルとビルの間を飛び抜けて、走り犯行予告現場へと向かう。

しかし、このスーツすごいな。

身体能力が、何十倍にもなってやがる。


走りながら、俺は考えた。

奴は、正義を語ってたが正義ってなんだ?

俺のこの行動は正義なのか?

正しいって誰が決めるんだ?


でも間違いなく、これは言える。

奴の正義で、人が死ぬなら俺の正義を貫くしかない。


それが、力を持った人の宿命だ。


東部の泉ビル跡地。

数年前に、移転した軍事会社の跡地で、立ち入り禁止のロープが色褪せて揺れている。


そのビルの朽ちたフロアに一人の影がいた。


黒いパーカーを着た少年。

フードは深く被り、顔はマスクて隠されている。

傍らには、カメラとノートパソコン、そして血痕のついたナイフが無造作に置かれていた。


その様子を俺は、隣のビルの屋上から眺めていた。

スーツの視覚センサーが、泉ビル跡地を赤外線でスキャンする。


「…いた。心拍と体温の確認。やっぱり単独犯か?」


スーツのヘルメットに浮かぶ映像。

そこには、未成年の少年の姿。


《解析完了。対象:14歳男子。過去に児童養護施設への一時保護歴あり》


《複数の問題行動。いじめの被害記録、家庭内暴力の疑い》


□□□


「お前は、こっち来んなよ!邪魔だから!あっち行ってろ!」


「家族がこんなになったのはあんたのせい!あんたなんか消えればいいのに!」


「先生は、君の家族の問題に関与できないな。しかも、学校では元気にしてるじゃないか。もう、余計な仕事を増やさないでくれ」


□□□


「…なるほどな。誰も守ってくれなかったか」


彼も被害者か…。


俺は腕時計のパネルを軽くタップし、メルメットを解除し自分の顔を露出させた。


そして、スーツの変身機能を起動。


俺は、交番の警官から見せてもらった写真をもとに被害者の少年に扮した。


顔、使わせてもらうぜ。


タイムリミットは10分。

行くか。


《ターゲット確認》

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