第6話 価値観のアップデート

だが、武田の視線は突き刺すように鋭い。

武田の喉がごくりとなる。


「わからんのか。チームのためだよ。お前はチームの足手纏いだ。そして、言葉じゃ伝わらん奴には、拳で教えるしかないんだよ。昔からそうだろ?」

「先生は、それが正しいと思ってるんですか?」

「正しいかどうかなんて関係ない!勝たせるためにやってるんだよ俺は!お前、また生意気な口聞いてるとあざが増えるぞ。今更、口ごたえするな!」


武田は、声を荒げてそう答えた。

その瞬間、俺は腕時計の裏側のボタンを押した。


「十分、いただきました武田先生」

「はあ?」


腕時計から「ピッ」という音とともに、録音データが保存された。


そして、俺は佐伯の変身を解きスーツ姿へ戻った。

武田の目が見開かれた。


「お前…誰だ!?佐伯じゃなかったのか!?」

「誰がなんて関係ない。あなたがやったことは本当に正義だったのか。それが、今日問われ審判が下されるだけです。子どもが泣く行為が正義だとは私は思いませんがね」


俺はその場から立ち去り、音声データを校長室の机の上に置いて学校から帰宅した。


□□□


次の日、どこから漏れたのか知らないがSNSでは俺が録った音声と共に「#暴力教師」のハッシュタグが拡散されていた。


俺が録った音声証拠は何百万再生にも達した。


そして、生徒たちの勇気ある証言もあって、野球部顧問・武田は即日懲戒処分となった。

その処分は、テレビにも大々的に取り上げられた。


そして、ユイとユイの親父とのいつもの夕食。


「上村丘高校の武田教論は部員に体罰をしたとして懲戒処分となりました。この件について、教育委員会は…」


ニュースを見ながら夕食を食べていると武田の件が報道されていた。


「上村丘高校ってお前たちが通ってる高校じゃないか。こんなことがあったのか…」


ユイの親父はスーツ姿でユイの手料理を食べながらそう呟いた。


「そうなの、お父さん。前から噂されてたんだけどね、やっと明るみになったみたい。よかった」

「そうなのか。まあ、この武田って先生いかにも昭和って先生っぽいし今の価値観と合わなかったのだろう。価値観は常にアップデートされるからな。俺らみたいな年配は、昔の価値観を当たり前にしないで常に時代に合わせなきゃダメだな…」

「ふーん、なんか難しいね。タツキもむすっとしてないでなんか言ったらどう?」


黙々とご飯を食べてた俺にユイは話を振る。


「なんだよ!飯食ってたのに!」

「タツキはどう思ったの?武田先生の件について。学校でも話したでしょ」


どうもこうも、こうなったのは俺が元凶だからな…。

まあ、ヘイズはバレてないし大丈夫か。


「SNSって怖いなって思ったよ」

「え?」


ユイは、予想した回答と違ったのかあっけらかんとした表情をしていた。


「見てみろよSNS。誰が、公開したのか分からないけど武田の音声は拡散されて、誹謗中傷の嵐。おまけに、個人情報まで特定されてる。少なくとも昔はこんなことなかったよな。今は見えない不特定多数の誰かに攻撃される世の中だ。怖いぞ」

「タツキ…」


ユイの親父も俺に同意してくる。


「確かに、タツキくんの言う通りだ。この暴力教師は許せんが今のSNSは怖い。使い方次第で刃物にもなる。まあ、怖い怖い言ってたらそれこそ価値観のアップデートは出来ないわけだが…」


ユイの親父の言葉で考えさせられる。

本当に、価値観のアップデートは怖いな…。


「で、なんで急に武田先生の問題が明るみになったわけ?」


ユイが少々大きめの声でそう言った。


「そりゃ、部員の誰かがチクったんじゃねーのかよ」


「いや違う」


俺の言葉に被せて水を刺すようにユイの親父はそう言った。

そして、続けて語り出す。


「これは、今話題の黒スーツの男。ヘイズの仕業だ!」


え?なんでバレてんの!?

俺、校長室に録音テープ置いただけだよな!


「いやいや、おじさん。いくらなんでもこじつけじゃ…」

「いや、もうネットでは話題になっている。ヘイズの目撃証言をな!だから、俺たち警察も動き始めた。正義の皮を被った怪物を捕まえるためにな…」


う、嘘だろ!

俺、バレたらどうなるんだ!

やべー。

一つ屋根の下で、警察と暮らしてるわけだ…。

これは、時間の問題かもな…。

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