第二章 間章5 原初の魔法
かつて、この世界には「魔法」と呼ばれる力があった。
それは今の術式とはまるで異なる、原初的で、より自由な力だった。
魔法とは――意志と感性、精神と魔力がひとつに結びつき、
世界の理(ことわり)を感じ取り、それを形にする技(わざ)である。
創造そのものであり、想像を現実に変える力。
祝福のように、奇跡のように、それは人々と共に在った。
だが、時代が進むにつれて、魔法は失われていった。
名だけが残され、その本質を知る者は、次第に姿を消した。
そして人々は、「術式」と呼ばれる技術によって、それを模倣し始めた。
術式とは、魔法の痕跡を系統立てて再現しようとした手段に過ぎない。
完全詠唱、決められた動作、呪文の構文、刻印、符号――
それらは本来、魔法の力を補うための“道具”であった。
だが、体系化されたことで、誰もが同じ結果を得られるようになり、
その過程で魔法本来の感覚や自由さは、徐々に失われていった。
本来、魔法は「イメージ」で発動するものだった。
術者の内にある像が魔力を喚び、現象を形づくる。
だがその核心は忘れられ、術式は機械のように固定化されていく。
呪文の意味も構造も失われ、やがては形式だけが残り、
魔法は単なる操作手順――「誰にでも使える技術」へと変質していった。
人々は信じるようになった。
「魔法とは、術式によって発動するものだ」と。
術式以外の方法は“誤り”とされ、異端と見なされた。
こうして、魔法は――本物の魔法は、歴史の底に沈んだ。
だが、かつてこの世界には、こんな時代が確かにあった。
子どもたちは、手を振るだけで火を灯し、水を操り、風を呼んだ。
誰もが、世界と直に繋がり、その理(ことわり)を感じ取っていた。
それは力ある者だけの特権ではなく、
世界に生きるすべての命が自然と持っていた感応だった。
その時代、魔法は絶対であり、日常であり、そして――最強だった。
今では、魔法は一部の貴族や学者たちの遊び道具となり、
魔導士の称号を得るには、数年の学びと莫大な金が必要となった。
だが、それでも現れる者たちがいる。
術式に頼らず、精神と魔力を直接つなぎ、ただイメージだけで魔を操る者たち。
現代では彼らは「術式破り(ブレイカー)」「偽術者(ギスリア)」と呼ばれ、
恐れられ、蔑まれている。
だが、彼らこそが、失われた魔法の最後の継承者である。
そして、世界が歪みを深め、秩序が揺らぐその時――
彼らの力が、再び目を覚ますだろう。
誰にも見えぬかたちで、誰にも分からぬ理を揺らしながら、
魔法は、再び世界と共鳴しはじめる。
その答えを知る者はいない。
ただ、時が来るのを、静かに待っている。
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