【自主企画】みんなでリライトしよう♬

芝草

【原文】『びしょぬれツバメは雨に笑う』――3、空想そのもの

【作品タイトル】『びしょぬれツバメは雨に笑う』


【作者】芝草


【作品URL】

 https://kakuyomu.jp/works/16818093094619238181


【該当話直リンク】

 https://kakuyomu.jp/works/16818093094619238181/episodes/16818093094619419735


【作者コメント】

 主人公の女子中学生:ツバメが、カンダチと名乗る男子にひっぱられて河に落ちて、河底で龍のような妖怪に出会うシーンです。リライトに関する特別な希望はございません。登場人物たちと一緒に、自由に楽しんで書いて頂けるとうれしいです。


 それにしても、たった一文で説明が済んでしまうシーンを、どうしてこんなに長くしてしまったのか……と、ちょっと反省しております。





 ==▼以下、本文。============



  いつだったか、ニュースで聞いたことがある。

 プールや海に飛び込みをした人が、骨折こっせつするような大怪我おおけがをした、と。


 じゃあ、ちゃんとした準備運動じゅんびうんどう練習れんしゅうもせずに、簡達橋かんだちばしから河に飛び込む羽目になった私は一体どうなってしまうのだろう?


 そんな恐ろしい空想をする間もなく。

 突然、何かが爆発したような轟音ごうおんが、私の体を包んだ。

 視界しかいは小さな銀の泡で埋め尽くされて、何も見えなくなった。


 あぁ、終わった……。


 ……と、思ったのだけど、どうもそうではないらしい。

 怪我どころか、痛みもない。

 せいぜい、全身がしびれるような感覚があるくらいだ。

 校舎の三階はありそうな簡達橋かんだちばしから落ちたのに……どういうことだろう?


 いぶかしんでいる間に、視界をおおっていた銀の泡が、川嶋河かわしまがわ濁流だくりゅうに流されていく。

 当然、私も一緒にだ。


 まずい。私、運動オンチなんだ。当然、泳ぎも得意じゃない。


 おぼれる者はわらをもつかむ、というけれど本当らしい。

 私は無意識むいしきのうちに、カンダチの右手を両手で掴んでいた。

 ちなみに。

「男子の手を握っちゃった! 初対面なのに!」なんて照れる余裕は、当然無い。


 なにせ、目の前で異常いじょうとしか言いようのないことが起こったのだから。

 命綱いのちづなにも等しいカンダチの手が、みるみる巨大化していくのだ。


 私の両手の中で、彼の指の骨の一つ一つが、きしみながらふくれ上がっていく。まばたきする間に、カンダチの右手は丸太のように太くなり、爪はナイフのように鋭くなった。


 彼の変化はそれだけでない。

 うろこだ。蛇のように滑らかな白い鱗がカンダチの体中にびっしりと生えていく。


「なにこれ、どうなってんの!」

 思わず叫んで手を放した私は、すぐに後悔した。


 そうだった。私、運動オンチだった。


 雨で増水しているのだろう。川嶋河かわしまがわの濁流が、命綱を失った私におそいかかってくる。

 流れにのまれ、どんどん沈んでいく私。それなのに、いつまでたっても河底に足がつかない。川嶋河かわしまがわって、どれくらいの深さあるんだろう。町で一番大きな河とはいえ、さすがにおかしくないか。


 息を止めているせいだろう。だんだん視界が暗くなってきた。何も見えない。このままじゃ、本当におぼれてしまう。


 その時だ。


「おい、ツバメ。顔色が悪いぞ。呼吸をしろ」


 カンダチの声が、どこからともなく聞こえてくる。まるで、水中全体から聞こえてくるみたいだ。


「そんな――無茶――言わないでよ」

 切れ切れに私は言い返す。

「水中で息なんて――できるわけないよ」


「いいからやってみろ。ここは川嶋河かわしまがわの底の底。特別な場所だ。なにせ俺の住処すみかだからな。人間でも息ができるはずだ」 

 カンダチは、フンと鼻を鳴らした。

「第一、それだけペラペラしゃべっておいて、何を今さら言っているのだ」


 ――確かに。

 私は恐る恐る深呼吸してみる。

 吸って。吐いて――カンダチの言うとおりだ。

 私、水中で息ができてる。全然苦しくない。一体全体、どうなってんの。


 頭は混乱状態だったけど、いいこともあった。

 呼吸が戻ったおかげで、視界も戻ってきた。


 私は明るく、静かな水中にただよっていた。

 まるで、巨大なプールの底にいるかんじ。音も波もなくいだこの空間は、ただんだ水と光に満たされている。さっきまで、川嶋河かわしまがわの濁流の中にいたのがウソみたいだ。


 天使の梯子はしごみたいに、水中をゆらゆらと揺れる光の帯をながめていると、ここが水中だということを忘れてしまいそう。

 まるで、空の上を浮いている気分。ここが、カンダチの住処すみか、か。


「落ちついたか、ツバメ」

 カンダチの声だ。でも、姿が見えない。


 私はだだっ広い水中を見回した。

「カンダチ? どこにいるの?」


「お前の上だ」


 その声にうながされ見上げた私は――思わずポカンと口を開ける。


「――りゅうだ」

 無意識むいしきにつぶやいた言葉と一緒に、泡がポカリと立ちのぼっていった。


 また例の空想癖くうそうへき? とか、言わないでほしい。

 私の頭上を悠々ゆうゆうと泳ぐそれを一言で表す言葉は、これしかなかったのだから。


 何百年も生きている巨木のように巨大な、白い蛇の体。

 頭には鹿の角みたいに枝分かれした二本の角。

 しなやかな長いひげむちのよう。

 私みたいな小柄こがらな女子中学生なんか、丸のみにできそうなくらい大きな口と、剣のように鋭いきば

 そんな牙にも負けないくらいに鋭く光っているのは、一対の巨大な赤い目。


 それはまさしく。私が空を見上げて空想していた龍そのものだった。



 ==▼以下は、リライトして頂いた作品のリンクです============



【ぱぴぷぺこ 様】


 クールでかっこいい言葉のチョイスが素敵なリライトです!

 https://kakuyomu.jp/works/16818622176299190992/episodes/16818622176722540848


【りつか 様】


 やわらかくてやさしい文章でつづられた、綺麗な映画のワンシーンのようなリライトです!


 https://kakuyomu.jp/works/16818622176308107197/episodes/16818622177043810756


【牛捨樹 様】


 幻想的で美しい描写と怪異のリアルさが絶妙なリライトです!


https://kakuyomu.jp/works/16818622176441335313/episodes/16818622177636773137

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