第10話「夜に強く、朝も強い」

 夜に強い俺が、朝も強くなった。


 以前の俺に言ったら、びっくりして飛び上がってしまうだろう。

 でも、本当のことだ。

 朝6時に鳴るアラームを止め、俺はゆっくりと起きてロフトベッドを降りる。


 こんなに朝に強くなったのも、宮本朝陽さんのおかげだ。

 彼女が朝に強くて、朝早く学校に来ていることから、俺も行きたいと思った。

 彼女と二人で、朝他に誰もいない教室で、色々な話をする。

 それが日課になっていた。


 宮本さんのことを、朝陽さんと呼んでいいかと訊くと、彼女はすぐに「いいよ」と言ってくれた。

 いつもの朝の陽のような明るい笑顔が、そこにはあった。


 今日も7時に家を出て、学校に向かう。

 今日は雨が降っているので、自転車ではなく歩いて行く。

 しばらく曇りの日や雨の日が続いている。でも俺の心の中はスカッと晴れたような気分だった。


 学校に着く。いつものように玄関で靴を履き替え、教室へ。

 朝陽さんはいるかなと思っていると、


「――あ、夜馬くん! おはよう!」


 と、元気な声が聞こえてきた。朝陽さんだ。


「あ、おはよう。今日は負けてしまったか」

「ふっふっふー、私も連敗する女じゃないよー! もっと褒められてもいいって思わない?」

「あ、う、うん、すごいね……」

「あれー? 夜馬くん、女の子を褒めるときはもっといい言葉があるでしょー」

「え!? あ、あの、その……か、可愛いよ、朝陽さん」

「えへへー、ありがと! 夜馬くんも可愛いよ」


 そう言って俺の頭をなでなでしてくる朝陽さんだった。ちょっと恥ずかしかった。


「あーでも、雨が続いてるねー、夜馬くんも自転車で来れないでしょ?」

「うん、まぁ仕方ないね、梅雨の時期が終わるのを待つようにしようか」

「そうだね、早く夏にならないかなぁ」


 朝陽さんがうーんと背伸びをしていた。まぁ、梅雨が明けるを待つしかない。その後は楽しみな夏休みが待っている。


「……あ、そうだ、夜馬くんも歩いて学校来たならさ」


 急に朝陽さんが僕に近づいてきて、


「……今日の放課後、一緒に帰らない? 一緒に傘入ってさ」


 と、俺の耳元で言った。朝陽さんの吐息が俺の耳にかかって、俺はドキッとしてしまった。


「あ、う、うん、よかったら、よろしくお願いします……」

「あはは、夜馬くん敬語になってるよー、可愛い。じゃあ、私もよろしくお願いします」

「う、うん、なんか一緒に帰るのもドキドキするけど……」

「うん、私もドキドキするよ。でも嬉しい。あ、そうだ、ずっと訊きたかったんだけど、夜馬くん夜遅くに起きてたよね。ほんとに勉強だけしてたの?」

「ああ、うん、勉強だけっていうか、ラジオ聴きながら勉強してたよ」

「へぇ、ラジオかぁ、どんな番組?」

「ああ、それは――」


『夜をお過ごしのみなさま、こんばんは。こちらケイネットFMからお送りする――』


 俺はスマホで番組表を見せながら、いつもの挨拶を思い出していた。

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