追放された悪役令嬢ですが、辺境で伝説の力を手に入れて辺境伯様に溺愛されることになりました~ざまぁはこれからよ、お覚悟あそばせ?~
第4話「招かれざる客と歪む後悔 – 王太子たちの視察とロゼッタの輝き」
第4話「招かれざる客と歪む後悔 – 王太子たちの視察とロゼッタの輝き」
辺境の地が豊穣の楽園へと変貌を遂げたという噂は、風に乗って遠く王都にまで届いていた。しかし、王都の人々、特に王太子アルフレッド様やヒロインのリリア嬢は、その噂をまともに取り合おうとはしなかったらしい。「追放された悪役令嬢が辺境で聖女?馬鹿馬鹿しい」「きっと飢えと絶望の中で惨めに朽ち果てているに違いないわ」彼らはそう信じて疑わなかったと、後から風の便りに聞いた。
そんなある日、エルミナの村に、王都からの使者として数人の騎士と役人が訪れた。彼らは、「辺境伯領の現状視察」という名目でやってきたが、その本当の目的が、私の噂の真偽を確かめることにあるのは明らかだった。そして、その視察団の中に、アルフレッド様とリリア嬢の姿があったのだ。
彼らがエルミナの地に足を踏み入れた瞬間、その表情は驚愕に染まった。痩せこけた大地と寂れた村を想像していたのだろう。しかし、目の前に広がるのは、どこまでも続く緑の絨毯、黄金色に輝く小麦畑、そして活気に満ち溢れた村の姿。道端には色とりどりの花が咲き乱れ、家々の窓辺は手入れの行き届いたハーブで飾られている。子供たちの元気な笑い声が響き渡り、すれ違う村人たちの顔には、健康的な血色と穏やかな笑みが浮かんでいた。
「こ、これが…本当にあのエルミナの辺境なのか…?」
アルフレッド様は、信じられないといった表情で呟いた。彼の隣に立つリリア嬢もまた、その可憐な顔を強張らせ、目の前の光景を呆然と見つめている。彼女の想像していた「悲惨な追放先」とは、あまりにもかけ離れた光景だったのだろう。
私は、村の広場で村人たちと談笑している最中に、彼らの到着を知らされた。あえて避けることもできたが、逃げる必要などどこにもない。私は、胸を張って彼らを迎え入れることにした。
「ようこそ、エルミナへ。王太子殿下、そしてリリア嬢もごきげんよう」
数年ぶりに間近で見る彼らは、少し大人びてはいたものの、その傲慢な雰囲気や、わざとらしい儚さは変わっていなかった。しかし、今の私には、彼らの存在など取るに足りないものに思えた。
私の姿を見たアルフレッド様は、息を呑んだ。きっと、やつれて悲嘆に暮れる私の姿を想像していたのだろう。しかし、目の前にいる私は、日に焼けてはいるものの健康的な肌艶で、質素ながらも清潔な衣服をまとい、何よりも自信に満ちた穏やかな表情を浮かべていた。私の周りには、私を「聖女様」と呼び慕う村人たちが、心配そうに、しかし誇らしげに私を見守っている。
「ロゼッタ…本当に、お前なのか…?」
アルフレッド様の声は、かすかに震えていた。その瞳には、驚きと、そしてほんの少しの後悔のような色が浮かんでいるように見えたのは、私の気のせいだろうか。
リリア嬢は、私と、そして私の周りの村人たち、さらにはこの豊かすぎる辺境の光景を交互に見比べ、その美しい顔をみるみるうちに歪ませていった。嫉妬、不信、そして焦り。様々な感情が渦巻いているのが見て取れた。彼女にとって、悪役令嬢が自分よりも輝いているなど、あってはならないことなのだろう。
「こんな…こんなはずでは…」
か細い声で呟くリリア嬢の言葉は、誰の耳にも届かなかった。
私は、彼らの動揺を内心で楽しみながらも、平静を装って言った。
「ご覧の通り、エルミナの地は、神々のご加護と、ここに住む人々の努力によって、豊かさを取り戻しつつありますわ。これも全て、殿下方が私をこの地に追放してくださったおかげですわね。感謝いたします」
皮肉を込めた私の言葉に、アルフレッド様の顔が微かに引きつった。彼は何か言おうとして口を開きかけたが、結局言葉を見つけられなかったようだ。
村の子供たちが、私の足元に駆け寄り、摘んできたばかりの野の花を差し出した。
「聖女様、これ、どうぞ!」
「ありがとう、可愛い坊や。後でお礼にお菓子をあげましょうね」
私は子供の頭を優しく撫で、微笑みかけた。その光景は、アルフレッド様とリリア嬢にとって、さらなる衝撃だったに違いない。彼らが「悪逆非道」と断じた女が、子供たちに囲まれ、聖女と慕われているのだから。
「…信じられん。一体、どんな手を使ったのだ」
ようやく絞り出したアルフレッド様の言葉には、疑念と苛立ちが滲んでいた。
「手、ですって?殿下。これは、この地に生きる者たちが、必死に手を取り合い、汗を流して築き上げた成果ですわ。王都の煌びやかな舞踏会では決して味わえない、土の匂いと、労働の喜び、そして人々の温かい心の結晶ですのよ」
私は、まっすぐにアルフレッド様の目を見据えて言い放った。その言葉は、彼が失ったもの、そして彼が理解できないものの価値を突きつける刃となっただろう。
リリア嬢は、唇を噛み締め、悔しそうに俯いている。彼女の得意とする涙も、今のこの状況では何の役にも立たないことを悟ったのかもしれない。
ざまぁ、だわ。
心の中で、私は小さく快哉を叫んだ。
これが、私を無実の罪で貶め、追放した愚かな者たちの末路だ。彼らは、自分たちが捨てた石が、磨かれて輝く宝石となったことに、今更ながら気づいたのだろう。しかし、もう遅い。後悔したところで、時は戻らないのだ。
アルフレッド様とリリア嬢は、その後も数日間、辺境伯領の各地を視察して回ったが、行く先々でエルミナと同様の、信じがたいほどの発展ぶりを目の当たりにし、その顔からは日に日に色が無くなっていったという。そして、彼らが王都へ帰る日、アルフレッド様は私に一言だけ、「…すまなかった」と呟いた。その言葉に誠意があったのかどうかは知らない。だが、私にとってはどうでもいいことだった。
彼らの後悔と驚愕に歪んだ顔は、私にとって最高の復讐だった。しかし、それ以上に、この豊かな大地と、そこに生きる人々の笑顔こそが、私の真の勝利の証なのだ。
彼らが去った後、エルミナの村には、いつもの穏やかな日常が戻ってきた。私は、彼らのことなどすぐに忘れ、再び大地と向き合い、人々と語り合い、この愛すべき土地をさらに豊かにしていくための新たな一歩を踏み出した。私の心は、かつてないほど晴れやかだった。
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