意味のない抵抗
ネジマキ
意味のない抵抗
目覚めの悪い朝だ。
狭い部屋に電話の音が鳴り響いている。
嫌な予感がする。僕の予感は当たる。そんなことを思いながら、不快の根源を断つために手を伸ばした。
「もしもし」
——もしもし、〇〇県警の山本です。里見根さんでお間違えないでしょうか、お訊きしたいことがあります。
そう畳みかけるように迫られ、考える暇もなく、
「はい。間違いないです、何でしょうか?」
——妹さんが殺されました
急な事実を突きつけられ、僕は返す言葉が思いつかず数秒の沈黙が流れた。
沈黙を破ったのは警察だった。
——大丈夫ですか?
「……はい。犯人は?」
端的に僕は訊いた。
——すみません、詳しい事はまだ。
その言葉を聞いて、僕は電話を切った。
頭の中に一つの言葉が繰り返し湧き出てくる。
犯人と思われる奴を探して殺す。
そうだ、僕がやるべきことだ。
僕はリュックサックに必要な物をつめ、家を出た。
並木道を歩きながら思う。妹は僕より優秀だ。両親からも愛され、育てられ、いい性格をしている。僕はその逆だ、日本語が
目の前に目的の建物が見えてきた。大学だ。
僕はまず、妹の友達と思われる人に話を訊きに行った。聴けた内容によると妹は、殺された日に探偵に会ってお金を貰うといっていたという。
……犯人は探偵か
それが分かればあとは、殺された時間にアリバイがない探偵を探すだけ。一見難しいと思われるが簡単だ、探偵は年がら年中仕事があるものじゃない。
僕は携帯からホームページを数個開いた。
「見つけた、この探偵だ」
載っている情報によると、探偵はひとりで経営をしている、尚更都合がいい。
殺し方は決めている。絞殺だ。これが1番いい。
予約を取り付けるのは簡単だった。
ドアノブを捻る。
開けてすぐ目の前に標的はいた。ホームページで見た写真のとおり中は狭い。向かい合わせに置かれたソファー、間にガラスのテーブル。その端に立っている探偵はどこか嬉しそうだった。
探偵はパクパクと口を動かしているが、激しく鳴る、うるさい心臓の鼓動でなにを言っているのか聴き取ることが難しい、わずかに聴き取れた内容もあっているのか定かではない。だが分かることはあった、手のひらをソファーに向けていることだ。
僕は手前のソファーに腰をかけた。
ひとりでやっているため、探偵はお茶をとりに背を向ける。僕はそれを見逃さない、リュックサックから用意していた縄をとり、探偵の首に巻きつけ、思いっっきり絞めた。精一杯、目一杯、死ぬ気で。
後から気づいたが、縄を持っていた僕の手から、摩擦熱で溶けたのか血が滲んでいた。
抵抗していた、布が擦れる音が聞こえなくなった。
僕は安堵した。
「これで大丈夫だ」
探偵の首に縄を絞め直し、端を天井から吊された蛍光灯に巻きつけ、テーブルの上に紙を一枚置く。
紙以外の僕がいた痕跡を消し帰路に着いた。その道には街灯はなく、暗く、僕の歩く音しか聞こえなかった。
家に着き、布団の中に潜り込んで「疲れた」と一言吐き眠りについた。
また目覚めの悪い朝だ。
インターホンが狭い部屋に何度も何度も何度も鳴り響く。ドアを叩く音も混ざっている。
また嫌な予感がする、そんなことを思いながらドアを開く。
「〇〇県警の山本です。あなたを、妹の殺人容疑で逮捕します」
ほら当たった。
——ニュース速報です。妹を殺害したとして26歳の兄を殺人容疑で逮捕しました。
男の職業は自称探偵とのことです
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