その1 第八話 青澤

第八話 青澤


「ミズサキいるかー」と店に入るなり訊ねてきた男がいた。


 男の名は青澤。


 青澤はミズサキがお気に入りのようで来る度にミズサキいるか? と気にしている。ロリコンだろうか。いや、ミズサキは年齢こそ若いが見た目はやたら大人びているのでそれは無い……か(そうでなければ高校生を働かせたりは到底無理だ)。

 青澤の麻雀は豪快にして緻密。冷静にして大胆なまさに最強のスタイルだった。おそらくこの店に来る客ではナンバーワンだろう。

 青澤は同業者かもしくは経験者である様子で、時々それを匂わせる発言をした。

 とくに印象的だったのはミズサキが青澤にドリンクのおかわりをするか聞きに回った時だ。


「青澤さん。お飲み物のおかわりはいかがでしょうか〜」

「……コー…ー……」

「えっ、コーホー?」

「…なわけねえし。コーヒーだっつの。おれはロボ超人かよ。まあいい、とりあえず……今はほっといてくれ。タイミングが…悪い」

「あっ、わかりました(よくわかってない)」

 


 しばらくしてゲームが終わり、卓から抜けた青澤がミズサキに話しかけてきた。

「あのな、ドリンクの注文を取るのは店側のタイミングと客側のタイミングが一致した時だけなんだ。どういうことかわかるか?」


「?」


「おまえも卓に入る人間ならわかるだろ、麻雀してる時の集中を。例えるなら道路の運転中ってとこか。免許はあるか?」

「原付き免許ならあります」

「なら分かるはずだろ。運転中によそ見なんか出来ないって」

「そうですね」

「聞いていいタイミングってのは赤信号で止まってるタイミングだ。それはつまり待ち番。自分が牌を切ってすぐの時とかがそれだな。あとはゲーム開始直後とかも聞きやすい。まだ加速してないからな。スタート直後は走行速度がゆっくりだから少しのよそ見くらいなら可能だ」

「なるほど、マリ◯カートのク◯パみたいですね」

「そういうことだ。局面が進んで加速してきたらよそ見なんか出来ない。ましてオーラスなんかF-1だ。瞬きも忘れて集中してる所に飲み物なんて聞かれても相手してられねえんだよ」


 いつもペットボトルのお茶を持参してきてるミズサキにはわからない事だったのでこの説明はとてもためになった。

 やはり人間、自分が感じないことに対しては中々気付けないものである。


「ありがとうございます! とてもためになりました。また何かあったら教えてくれたら有り難いです。私、わからないことばかりなので」

「おう、素直なやつには色々教えてやるよ」




 男の名は青澤。後にミズサキの師匠となる男である。

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