第42話 今晩は結婚の余韻に浸らせてくれる?(4)

「お前らさ……何してくれたんだよ」

クリスは機嫌の悪い陰険な表情で私たちに言った。


そばにエミリー・ブレンジャーがいて、アリスが真っ青な顔で地面に横たわっていた。


エミリーは、前世でダンジョンにいた女性にそっくりだ。クリスと一緒に浮気をしていた女性だ。


――なんてことっ!


私は衝撃で体が固まった。


「妹は気絶しているだけよ」

エミリーは私たちに言った。


「ソフィアはどこに行ったんだよ!」

クリスが叫んだ。


――ジャックはどこ?


私はすぐそばの馬車の中にジャックが眠るようにして倒れているのを見つけてゾッとした。

  

――馬車の中に『偽の魔力』を入れている?


シャーロットを馬車に無理やり押し込んだクリスは、ニヤリと笑った。


――待って!?

――爆発させる気ね?


馬車のドアを荒く閉めたクリスは、薄気味悪い顔で私たちを見た。


だが、私の視界にジャックが目を開けて反対側のドアからシャーロットを連れてそっと出る様子が見えた。


「アリス!起きて!ザックリードハルトのルイ皇太子が来ているわ!ディアーナ様と一緒よ!」


私は大声で叫んだ。


ギョッとしたエミリーは飛び上がり、青ざめて必死で辺りを見渡し始めた。


――お願い、アリス!目を開けて!


アリスはルイ皇太子が来ているという言葉でスッと目を開けた。

私がこっそり手招きをするのを見て、這うようにしてこちらにやってきた。


ジャックがシャーロットの手を引いて、走るようにして馬車から離れていく様子が見えた。


「あら?ソフィアも来たのね。クリス、ソフィアはこちらで隠していたのよ。今、馬車のところにいるじゃない。ソフィア、その馬車に乗っていいわよ」



私の言葉にギョッとしたクリスはジャックとシャーロットが逃げ出した馬車に駆け寄った。


――今よ!


同時に私は隠し持っていたウェブリー製のリボルバーを、第三特殊部隊でモンスター・ビルマネントを狙い撃ちする本気度で馬車を狙撃した。


馬車をだ。


「離れて!爆発するわ!」


私とアルベルト王太子とアリスは全速力で王立魔術博物館の方に走った。


凄まじい爆撃音と共に、馬車が吹っ飛んだ。

クリスは爆発の衝撃で吹き飛んだ。馬車のドアが当たり、かなり離れたところに吹き飛んだのだ。


――おばあちゃん、遺産を取られてごめんなさい。こっちの世界で仕返したわ。


ぴくりとも動かないクリスは、王家の兵たちに運ばれて行った。

「生きているが、動けるようになるかは不明だな」


アルベルト王太子が氷のように冷たい声で言い放った。



「これで結婚発表は明日になった。今日はゆっくり休もう」

この言葉を発した氷の貴公子は、くしゃくしゃのブロンドヘアをかきあげて、打って変わって照れたような表情になった。


――あぁっ、そのことを忘れていた……。


ジャックはシャーロットの手を引いて戻ってきた。


私はシャーロットを泣きながら抱きしめた。


「シャーロット!無事でいてくれて本当によかった」

「お嬢様ぁ」


――シャーロットが無事で本当によかった……。


シャーロットは真っ青な顔をしていたが、アルベルト王太子が生涯好きなだけフルーツを与えると言ってくれたので、グッと気分が良くなったようだ。



「明日、結婚発表ですね!?うふふっあっお嬢様、明日は大事な日ですから今日は早く寝なければなりませんっ!美容に響きます」


シャーロットはソワソワと言い出して、私たちは王宮に戻ることになった。寮は心配だとアルベルト王太子が言い張ったからだ。


アリス・ブレンジャーも王宮に招待された。エミリーは兵に捕えられて牢に連れて行かれた。


「反省なさいっ!」

「反省しろ!」


妹にも父にも非常な剣幕で叱責されたエミリー・ブレンジャー子爵令嬢は小さくなっていたが、私を睨むことだけは忘れていなかった。



「いよいよ、結婚かぁ……」

アルベルト王太子はそう感慨深い様子で呟き、ブルーの煌めく瞳で私を見つめた。


「まだ……漁村の方に魔力が残って……」


私の唇にアルベルト王太子の温かい唇が重なった。


「その話はまた明日にして。今晩は結婚が決まった余韻に浸らせてくれる?」

 

私は真っ赤な顔で「はい」とうなずいた。体中が熱くなり、どう言ったら良いのかわからず、アルベルト王太子に抱きしめられたのだ。


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