――でも、気になるのは、クリスは最初から列車事故が起きることを知っていたということだわ。

どういうことか、よく考える必要があった。

――やっぱり、あの時、わざとクリスは私を問題の列車に誘導したの？

――まさかとは思うけれど、わざとだとしたら、どうだろう？

「ね、あなたがあの列車に乗ることはいつ決まったことなの？」

私はアルベルト王太子の顔を見上げた。

「２月には決まっていたよ。豪華寝台列車だから、前もって予約が必要だし、王家が公共機関を使うケースは慎重に計画される……そうか！俺を狙った事故だったという可能性があるのか」

アルベルト王太子は私を見つめた。

「何かの理由があって、アルベルト様が乗る列車は事故を起こすようにされていた？」

――そこに、あの日、クリスは私を最初からあの列車に誘導するつもりだったとしたら？

――偶然、私はアルベルト王太子と一緒になり、あの列車に乗った。でも、クリスはやけにしつこく私を追ってきて、駅でも諦めずに私を追いかけてきたわ。

――ソフィアとクリスのあの日のあの愛の囁きは、計画的に私に見せたとしたら？

――あの日、私が見たものは、今日の２人の営みとまるで違った。

――今日の行為は激しかった。本気の２人だった。あの時見た光景と全然違った。あの日、クリスとソフィアはわざと逢瀬を私に見せたのだとしたら、辻褄が合うかしら。

私はだんだん頭がすっきりとしてきて、冴えてきたのを感じた。

「クリスはわざと私をあの列車に誘導したとしたら、どうかしら。あなたが乗る列車は最初から事故が計画されていたとして考えてみましょう。あなたと私が助かったのは、偶然で、この時計のおかげだと仮説しましょう。本当はあなたは死んでいたはずで、私もかなりの打撃を受けたはずだったのかしら」

車椅子になる以上の打撃が何なのか知らない。結婚は許されるぐらいで、その後簡単に私を葬りさることができるぐらいの打撃だ。

私はその仮説を言いながら、猛烈な怒りがこみあげてきた。

ゾッとする仮説に私は震えた。

アルベルト王太子と私はお互いの手を握りしめて、顔を見合わせた。

春の黄昏は美しかった。

しかし、私たちが迷い込んだ世界は、誰かによってとんでもない悪意に満ちた計画が進行しているようだ。

馬車がどこに向かっているか、私はまだ知らなかった。

疲れきって、私は眠ってしまった。

「ディアーナのことより、君が気になるんだ」

うとうととし始めた私は、アルベルト王太子が私にそっと囁いた言葉に気付かなかった。

「氷の貴公子の異名を返上してでも、君を守り抜くよ」

夢の中で額にキスをされたような気がしたが、ただの夢かもしれなかった。

アルベルト王太子の温かい胸に抱き寄せられた私は、安心して眠ることができたのだ。