第十九章「八つ首顕現、洞窟の決戦」(前半)

 十二月十三日、簾守山・月読洞窟。

 山の霊脈が最も集束するこの場所は、古来より「夜の神が眠る地」として人々に畏れられてきた。

 今、そこに八つの怨念珠が揃い、封印の結界がかすかに震えている。

「……封印が、内側から開かれようとしている」

 洞窟の入口に立った蒼翔が、冷たい霊気を肌で感じてそう呟く。

「芯が、珠を核にして顕現する準備を整えたのです」

 柚葉は、両手に術札を構えたまま、かすかに震える声で答えた。

「これが最後……でも、ここが始まりです。“契約”を越えて、あなたと本当の“誓約”を結ぶために」

 蒼翔は横を見やり、柚葉の目をまっすぐに見返す。

「俺はもう、“今だけを楽しむ”なんて言わない。お前と“未来”を見る覚悟ができたからな」

「……ありがとう、蒼翔さん」


 月読洞窟の奥。

 巨大な霊石が、八つの珠を包み込むように脈動していた。

 それはまるで生き物の心臓のように、光を帯びて震え、空間そのものが歪みはじめている。

 そして――

 石の中央から、黒紫の霊体が沸き立ち、八つの顔を持つ影が姿を現した。

「……これが、“八つ首”」

 柚葉がごくりと喉を鳴らす。

 それは人でも鬼でもない、怨念の集合体。

“嫉妬”“怠惰”“傲慢”“色欲”“暴食”“強欲”“憤怒”“恐怖”――八つの感情が絡み合い、互いに引き裂き、蠢くようにしてその姿を構成している。

「珠を返せェ……!」

 八つの口が同時に叫び、洞窟内に重低音の怒号が響いた。

 蒼翔が術符を構える。

「言葉通じる相手じゃなさそうだな」

「いいえ、“感情”には感情で応じるしかありません。……ならば、私たちの“絆”を、ぶつけましょう」

「上等だ」

 二人は同時に双魂札を放ち、洞窟内に術陣を展開した。

〈蒼鶴〉と〈桂狐〉が呼応し、空間そのものに光の輪を描く。

 珠から発される黒氣が術陣にぶつかり、火花のような衝突を起こす。

「柚葉、陣を下層構造に切り替えるぞ!」

「はい。対“多重核”用の封陣式、起動します!」

 陣が回転し、空間の結界が三重に変化する。

 封印ではなく、“削りながら縛る”という、極限の持久戦型の構成だ。

「でも……これ、長くは保ちません。蒼翔さん」

「分かってる。“核”を狙う。それがあいつらの“中心”だからな」

 蒼翔が懐から風札を抜き、珠の中央を狙って投げ放った。

 その札が弧を描いた瞬間、八つ首の一体が牙を剥いて襲いかかってくる――!

「危ないっ!!」

 柚葉が飛び込み、蒼翔を庇うように術を放つ。

「封呪・《光閃・反撃》!」

 桂狐の尾が一閃し、怨念の顔を切り裂く。

「……無茶すんなよ」

「……これでも、あなたより“冷静”なつもりです」

「おう、頼りにしてる」

 ふたりの連携は、既に言葉を超えていた。

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